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複雑化、多様化する官公庁及び地方自治体が持つ「課題」。その課題を研究開発型のスタートアップ・中小企業の斬新なアイデアと繋げるのが『内閣府オープンイノベーションチャレンジ2021(略称:内閣府OIC2021)』だ。
その成果発表のためのDEMODAYが、2022年2月22日に行われた。これから日本を変えていくかもしれない行政✕スタートアップ・中小企業の取組を特集していく。
イノベーションは、『オープンな形で知恵を出し合うこと』で生まれる
「そもそもイノベーションとは何か?」
内閣府科学技術イノベーション推進事務局企画官の宇田川氏(以下、宇田川)は、DEMODAYの始まりに、そう問い掛け、自身の考えを述べた。
“宇田川:イノベーションとは様々な知識や技術を持つ研究者の方、企業団体の皆様、日本全体、それぞれの方々が属するコミュニティやグループが抱える大小さまざまな『社会的課題』に対して、立場や組織の壁を越えて、『オープンな形で知恵を出し合うこと』で生まれてくるものであると思います。(内閣府OIC2021 DEMODAYの発言から抜粋)”
この言葉に全てが包含されているかどうかは、ひとによりけり、解釈によりけりかもしれない。しかし、より大きなイノベーションにおいて『オープンな形で知恵を出し合うこと』の重要性を否定する人は多くないだろう。
ただ、この言葉は内閣府OICの精神性を良く表していると感じる。
内閣府OICを一言で表現すれば『行政の抱える課題を、スタートアップの技術・アイデアで解決する取組』だ。組織、業界の垣根を超える際に隔てているクレバスが大きい程にオープンであることは成功を握る。
また、この内閣府OIC2021のメリットを、株式会社野村総合研究所アーバンイノベーションコンサルティング部グループマネージャー徳重氏は、DEMODAYで『一粒で2度美味しい』と言い表したが言い得て妙だ。
“徳重:それによって産業振興・グロースハック、行政の課題解決を『一粒で2度美味しい』をやってしまおうというのが、このオープンイノベーションチャレンジだと思いますし、古くは欧米のSBIR(※1)、そして日本版SBIR(※2)の一丁目一番地の事業ではないかなと思っております。(内閣府OIC2021 DEMODAYの発言から抜粋)”
※1,2:SBIR(Small Business Innovation Research)とは、政府が中小企業による研究技術開発とその成果の事業化を一貫して支援する制度。日本版SIBRは、中小企業技術革新制度と呼ばれ、新技術開発の補助金・委託費によって、中小企業への支出機会増大を図るなどの支援をしている。(日本版SIBR公式サイト:https://sbir.smrj.go.jp/)
こうした話を書くと「オープンイノベーションは銀の銃弾ではない」なんて批判が来る。事業者の立場で行政と新事業を立ちあげるべく奮闘した経験がある筆者も、これは痛感している。
しかし、銀の銃弾ではないということは、有用な手段ではないということではない。
実際に今回の内閣府OIC2021のDEMODAYを聞いていて、改めてそう感じた。
オープンイノベーションに限った話ではないだろうが、当事者が銀の銃弾等というアリもしないものに縋ることもなく、汗を流して、実るべき結果に向けて挑戦をすれば、解決の糸口は見えてくるものだ。
確かな“ペイン”に基づいた6つの社会課題
当初、募集されたテーマは「海洋」、「農林水産」、「インフラ」、「安心・安全」、「防災」、「教育」、「ダイバーシティ」、「ヘルスケア」、「モビリティ」、「ロボット」の計10のカテゴリーであった。
その内、採択されたテーマは下記6つであり、各プロジェクトから成果の発表がなされた。
- 海岸漂着物を燃料等として再資源化する技術
- 産後うつの発症・重症化を防止するための産後うつ兆候探知技術
- ノリ漁場に飛来するカモを追い払うことが出来る技術
- 農地や民家への接近防止
- 小中学校に配布するタブレットを活用したキャリア教育に関するコンテンツ
- 既存の公共交通機関が対応しきれない、道路が狭隘なエリアにおける交通ニーズを満たす手法
いずれも、その地域の住民、産業にとって大きなペインとなっている課題だ。そして、その課題の視野を、地域から日本全国、更に世界に拡げてみると非常に大きな社会課題であるものが大半だった。
例えば京都府が挙げている「海岸漂着ゴミ」は、ただ海岸が汚いという話に留まらず、年間4000万の費用が掛かっている。さらに言えば、8割以上の都道府県が海に面している日本において海岸漂着ゴミの問題は京都府固有の問題ではない。
獣害も農水省の発表によると年間約158億円(2019年度)も掛かっている。もちろん、獣害ではお金だけではなく、命が失われるケースだってある。
産後うつは、日本産婦人科医会によると罹患率が10-15%にも昇り、誰もが当事者、関係者になる可能性があるものだと言える。
そして、上記のような社会課題は日本だけの話ではないのも想像に難くない。
こうした課題設定は、簡単なようで難しい。
兎角、見栄えや聞き触りの良い技術論、手法論に陥り勝ちになりやすいところを、泥臭く現場の課題を掘り起こしていく必要がある。
「このサービス、技術は凄いんです!」という売り込みと「じゃあ、それを導入しよう」という安易な判断ではなく、「この課題のペインが大きい」と気付き、「では、こうしたら解決出来るのではないか」と仮説を立て、実行をして、調整を繰り返していく。
そんな取組が多かった印象だ。
“徳重:こちらの取組の素晴らしいところは、仮説検証をしっかり回していることですよね。
「怖いから動物園行こう、動物園行った、微動だにしない、やっぱ人に慣れてる、じゃあ野生でいこう、でも怖い、じゃあ自動化しよう、中電パワーグリッドさんよろしく!」という。(内閣府OIC2021 DEMODAYの発言から抜粋)”
▶各取組の詳細は下記の記事をご参照下さい。
- 【京都府】処理費用は、年間四千万円。「海岸漂着ゴミ」を減らし、再資源化する
- 【京都府】母親の命を救う、「産後うつ検知システム」への挑戦
- 【愛知県】養殖業を脅かすカモの食害を防ぐ、人にも動物にも優しい光技術
- 【つくば市】年間500頭以上捕獲しても止まらない、イノシシによる獣害対策
- 【和光市】タブレットを活用した、「ボードゲーム」による子どもの可能性を拡げるキャリア教育
- 【和光市】移動困難者の本当の”ペイン”を探る。自動運転サービスの検証
自治体とスタートアップ企業で未来をつくるには。
DEMODAYの最後には、アドバイザーであるデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社代表取締役社長齋藤様(以下、齋藤)、東京大学FoundXディレクター馬田様(以下、馬田)を交えたパネルディスカッションが行われた。
テーマは、「自治体とスタートアップ企業で未来をつくるには」。
特に共感を覚えたのは「いかに行政のアジリティを上げるか」と「オープンかクローズというのは、ゼロイチではない」という点だ。
そして、馬田氏が述べていた「今回の取組がうまくいけば、本当に世界を変えるかもしれない」というストーリーを描いて挑戦して欲しいという助言である。
これらの詳細は、是非全文記事にて登壇者の議論を読んで欲しい。
2022年は、「スタートアップ創出元年」になるか。
2021年のスタートアップ全体の資金調達額は、年間ベースで過去最高となったという。政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けており、本イベント中にも数度「新SBIR」にも触れられていたが、関連した政策も動き始めている。
2017年度から始まった内閣府OICは、その一つのショーケースでもある。
ショーケースと言っても見栄えを良くするハリボテではなく、実態の伴った実例となるべき取組だ。その判断は、いまこの時点では出来ない。なぜなら、幾ら技術進歩が加速しているとはいえ、イノベーションが我々の暮らしに影響を及ぼすまでには一定の時間が掛かるからだ。
特にWebで完結せず、フィジカルや社会制度に影響を及ぼすようなイノベーションであれば尚更。
だからこそ、当事者として、受益者として、今後の動向もウォッチしていきたい。
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(編集・ライティング・デザイン:深山 周作)