イノベーションの創出において、科学技術研究は重要な役割を担う。
Googleも元を辿れば、ハーバード大学の研究プロジェクトとして歴史は始まった。
政府では『科学技術・イノベーション基本計画』を策定し、科学技術・イノベーション政策を総合的かつ計画的に推進している。現在、令和3年度からの5年間を対象とする次期計画の検討が進んでいるが、その中で科学技術研究について下記のように言及している
“イノベーションの源泉として非連続な発展を生み出し、また新たな疾病や災害など非連続な変化を克服すべく立ち向かってきた。(科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)|内閣府)”
昨年、そんな科学技術を支える研究者の環境を整え、国家全体の研究力を向上のためにひとつの認定制度が動き始めた。
研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(以下、本認定制度)——。
2020年9月8日に行われた本認定制度の周知イベント(以下、本イベント)の様子をレポートしながら、その内容を紐解いていこう。
研究支援サービス・パートナーシップ認定制度とは?
本認定制度は、その名の通り「研究支援サービスを認定する制度」だ。
略称は『A-PRAS(Accreditation of Partnership onResearch Assistance Service)』。
『研究支援サービス』とは、民間事業者が提供する研究者の研究環境を支援するサービスで、大別すると5つとなる。
本イベントのはじまりに文部科学省 梶原審議官は、研究支援サービスへの期待をこう述べている。
この研究支援サービスを”文部科学省が認定”し、利活用を促進することで「研究者の研究環境を向上する」ことが本認定制度の目的だ。
また、文部科学省は認定された事業者との連携や支援を行うことで、ただの認定制度ではなく、「研究者支援のエコシステム」といえるような土壌をつくっていく意向も読み取れる。
初認定となる今回は38件の申請があった中で8件が厳選された。
支援サービスが、研究の「ヒト・カネ・モノ・情報」を繋げる
今回選ばれた認定サービスについて、選定委員であった立命館大学の仲谷学長はこう語った。
“研究者にとって「こういうのがあったらいいな~」というもので、研究者のみならず、研究関係者にとって有益で安心して利用できる研究支援サービスを選んだつもりです。(学校法人立命館総長・立命館大学長 仲谷 善雄|本イベントの発言から抜粋)”
認定サービスには、こうした想いを下地に幾つかの要件も加味されている。
そうして認定されたサービスの概要を紹介しよう。
※各サービスの詳細な説明はこちら
サービス名 | サービス概要 |
---|---|
Impact Science | 専門ライター陣とメディア戦略のプロによる国際的な研究広報サービス。 |
L-RAD | 研究者の持つ未活用アイディアと共同研究相手を求める会員企業の産学マッチングサービス。 |
研究機器のシェアリングサービス | ハイエンドな理化学・計測装置を従量課金制で研究者に提供するサービス。 |
JDream Expert Finder | 約3800万件以上の論文と豊富な研究者データをもとにパートナー発掘ができる共同研究探索サービス。 |
J-DAC | 貴重な史料のオンライン提供サービス。 |
Securite ACADEMIA | 大学の研究開発・教育開発・研究者育成に必要な資金供給方法を提供する寄付募集支援サービス。 |
BRAVE | 研究開発型プラットフォーム特化型のアクセラレーションプログラム。 |
リサイクルネットワーク、マルチベンダーサービス、ラボストックサポート、ZAICO、ZAI | 研究機器の資産管理から保守メンテナンス、中古売買を実現するパッケージサービス。 |
それぞれのサービスは、後述の議論にも出てくる多くの研究機関にとって共通課題である「ヒト・カネ・モノ・情報」といった研究資源をサポートする役割を持つものが多い。
変わる研究環境を支えていくために
また、本イベント内では研究機関を取り巻く現況や本認定制度と研究支援サービスにおける課題も議論がされた。
まず、岡山大学 副理事の狩野教授は「科学技術を取り巻く現況が大きく変わってきている」と話し始める。
1つ目は「原則的に研究資源は減少傾向にある」ということ。多くの人の認識の通り、人材、資金、地球資源、と様々なリソースが減っている。
2つ目は「研究者の活動に、色々な繋がりが求められ始めている」ということ。研究者単一ではなく、様々な関係性を構築していく必要性が増している。
こうした変化の中で、支援サービス活用に可能性を感じるか、感じるならばぜひ積極的に一歩踏み出すことを考えてほしい、とのことだ。
また、徳島大学の井内准教授は「まだ、研究支援サービスもあまり知られていない。今回認定されたサービスも事前に2つほどしか知らなかった」と認知度の問題に触れた。
その上で本認定制度を通じて研究支援サービスの認知が進むことが期待できること、狩野教授と同じく財源不足や人材不足から研究機関側の負担に配慮する必要性があると考えを話した。
信州大学の阿部准教授は「今後、研究支援サービスは増えてくると、選ぶのも大変になる。そのため、サービス利用者の声が反映され、”本当にいいサービスが認定された制度”を維持することが重要」と、『制度自体の信頼性』をポイントに挙げた。
昨年からはじまった「研究支援サービス・パートナーシップ認定制度」。
こうした議論も踏まえ、制度の認知度や信頼性はもちろん、研究機関や研究支援サービス提供事業者をいかに多く巻き込んでいけるかが成否を分けるだろう。
検討が進む『科学技術・イノベーション基本計画』と合わせて、日本の研究力やイノベーション創出を促進するひとつのピースになるか。
今後に注目したい。
研究支援サービス・パートナーシップ認定制度の公式サイトはこちら
(記事制作・編集:深山 周作)