コロナで第2回の表彰が延期となっていた「日本オープンイノベーション大賞(内閣府Webサイト)」が、第3回と併せた形で2021年2月25日に行われた。
日本オープンイノベーション大賞とは何か。
内閣府によると下記の通りである。
“日本オープンイノベーション大賞は、オープンイノベーションのロールモデルとなる先導的・独創的な取組を表彰し、我が国のイノベーション創出を加速するための表彰制度です。|日本オープンイノベーション大賞事務局(youtube)”
毎年100件を超えるエントリーがあり、その中から13の賞が授与されている。今回の授賞式には井上科学技術政策担当大臣や選考委員会主査を努めた東京大学各務教授他が出席し、内閣総理大臣賞、科学技術政策大臣賞等の表彰が行われた。
今回は表彰式に先立ち行われたパネルディスカッションをレポートしたいと思う。本パネルディカッションでは、各賞の中で最も優れている取組に与えられる内閣総理大臣の受賞取組の紹介およびオープンイノベーション成功に必要なこと、そして課題について議論が行われた。
オープンイノベーションの壁、成功に必要なことを考える
オープンイノベーション大賞を受賞した株式会社MUJIN 滝野一征氏(第2回)、半熟仮想株式会社の成田悠輔氏(第3回)から「オープンイノベーション成功の秘訣」について、パネルディスカッションが行われた。
「”自動化”を自動化」し、ロボット市場を拡大する|MUJIN
まず、滝野氏から受賞取組である『汎用的「知的ロボットコントローラ」の開発』について紹介があった。この取組は、株式会社MUJINとロボットメーカー等、5社による協働事業だ。
労働人口と物流ニーズのギャップを埋めるために注目されている産業用ロボット。しかし、「教えた事しかできないロボット」では、それぞれの現場への導入ハードルは高い。
この取組では、一度MUJINのコントローラーをつけた産業用ロボットを「知能化」し、ロボットが自身で判断することが可能になった。滝野氏の言葉を借りれば「”自動化”を自動化する」のだそうだ。
従来はロボットのタスクが変わってしまう(ex.現場で取り扱う商品が変わるなど)と、再度プログラミングし直す必要が生じていたが、そうしたコストや手間を気にしない文字通りの『汎用的「知的ロボットコントローラ」』を実現可能だという。
今後、工場や物流をはじめとした多くの現場でロボットの活躍を促し、少子高齢化により労働力が減少する日本の経済、暮らしを支える技術として期待が出来る。
また、連携に必要なこととして滝野氏はこう語った。
“理想だけではなく、実際にコレ(取組)をやることによって、事業が成立するという証明をしなくてはいけない。また、エンドユーザーに「欲しい」と言ってもらえるレベルまで引き上げなくてはいけないと実感しました。|滝野氏”
滝野氏は「”大企業はコンサバだ”といったお話も聞きますが、PoCフェーズまでは結構やってくれる」とし、メディアなどで言われるような古い大企業観のようなものはなくなりつつあり、「むしろ、提案するこちら側の問題だと思っています」とも言う。
アルゴリズムの比較まで可能な意思決定アルゴリズム
次に成田氏から『社会的意思決定アルゴリズム(Open Bandit Pipeline)のオープンソース開発&実装基盤』の紹介があった。
半熟仮想株式会社はZOZOと協働し、TOPページにファッションアイテムを陳列するアルゴリズムを変更し、クリック率換算で40~60%の改善を実現した。
データには、ZOZOTOWN上での実際の推薦アルゴリズムから取得された2,600万件超のファッション推薦データであるOpen Bandit Dataが用いられた。
これだけであれば、「よく聞くAIのやつ」といった印象を抱くかもしれないが、この取組が特徴的なのは改善のためのアルゴリズムを実際にサービスで動かさずにシミュレーション環境だけで予測可能な技術や”予測方法”自体を比較するメタ予測といった技術も開発し、OSS(オープンソースソフトウェア)として公開したという。
この技術があれば、病院の診断や教育現場のようなテクノロジーに代替しづらいセンシティブな判断が求められる領域でも活用がしやすくなる他、そのシミュレーションも自動的に最適化することが可能になる。
成田氏は「日本土着のサービスやデータから出発したプロジェクトで世界の何処に行っても恥ずかしくないようなR&Dやソフトウェア開発を進められたらなあ」と想いを語った。
成田氏はオープンイノベーションの壁について「一番難しいのは、インセンティブや求めるものが、人・組織・業界によって違うというのが大きい」と話をした。
“壁で仕切られた業界ごとのローカルな価値観や慣習、評価、インセンティブに囚われがちです。(中略)それを乗り越えるためにはインセンティブを乗り越えるために強い人間を創り出すというのも重要ではないでしょうか。|成田氏”
また、印象的だったのは「日本は、オープンイノベーションでデータ科学的な取組を進めるのに適した国かもしれない」という成田氏の発言だ。GAFAのような大企業がデータを独占しているアメリカ等と違い、一般的にデータ弱者である日本では特定の企業が圧倒的にデータ占有していないため、企業間の連携をしやすいと説明した。また、韓国には「データエクスチェンジ」と呼ばれるデータ取引市場があり、そこでデータが商品化していることを指し、「こうしたちょっと危険と思われる領域にも取組むことも厭わない姿勢も重要ではないか」とも提案した。
最後に
先日、内閣府主催のオープンイノベーションチャレンジでも感じたことだが、産官学、業界の壁を越えたオープンイノベーションの土壌はすでにあるのだろう。
それぞれの課題感や閉塞感からか「オープンイノベーションをして、次のステージに進まなくては」という意識は十分に種を蒔かれ、芽吹き始めている印象だ。
一方で、成田氏の指摘するように「各組織のインセンティブ、評価、慣習の違い」は、まだまだある。
「やりたい!」という意思があっても、滝野氏の言うように「事業として成立させる」ことや「魅力的な提案」といった具体的なアイディアのない名ばかりオープンイノベーションばかりが乱立しても意味はない。
受賞した取組から鑑みると、オープンイノベーションとは目的や飛び道具ではなく、「自身のビジョン、事業、研究に真摯に向き合った先に必要となった一手法」であり、受賞者からはその真摯さを強く感じた。
次のオープンイノベーション大賞では、どんな取組がエントリーされるのか楽しみだ。
(写真提供:日本オープンイノベーション大賞事務局、記事制作・編集・デザイン:深山 周作)