いまこそ振り返る。東京オリンピックへのアンチテーゼ(4)~2020東京五輪の収支構造や経済効果~

※投稿したコメントは、投稿後5分間まで編集が可能です。
※誹謗中傷など、不適切なコメントはお問い合わせから運営まで通報ください。

これまで「支持率の変遷」、「開催決定からこれまでに起きた騒動」、「五輪が遺すレガシー」を整理しながら、2020東京五輪に対するアンチテーゼの「火種」がどのようにして育まれ、現在の世論を形成してきたのかを振り返ってきた。

残り38日。未だに開催賛成の世論は圧倒的に低い。

5月調査で、「開催」はわずか14%。4月調査の半分に減り、2度目の緊急事態宣言が出ていた1月の11%に次ぐ最低レベルになりました。男性は18%、女性は11%と女性の方が悲観的な傾向がみられます。|withnews(2021年6月1日)

2020東京五輪のアンチテーゼを振り返ってきた本シリーズだが、最後に「2020東京五輪の収支構造」や「経済効果」を見ていこうと思う。

画像:Yuliia Chyzhvska

オリンピックの収支構造を整理しよう

2020東京五輪の経済効果を理解するために、まずはオリンピックの収支構造を整理しよう。

オリンピックの収支は、おおまかに「組織委員会の収支予算」と「その他の経費分担」に分けて考える必要がある。

「組織委員会の収支予算」から見ていこう。

組織委員会の収支予算

まず、「組織委員会の収支予算」というのは、大会の準備や運営のみに直接関連する収入と支出の予算のことだ。

2020東京五輪の場合、収入・支出ともに7,210億円となるよう予算が組まれている。

組織委員会およびその他の経費|TOKYO2020」を参照

ちなみに収支予算は、これまでに幾度もバージョンアップされ、上図は2020年12月時点のバージョン5(V5予算)だ。

現時点では収支ゼロで組まれている予算だが、果たして「大会終了後の決算」はどのようになるのか

過去の大会を遡ると、オリンピック組織委員会の収支は、最終的な決算では赤字にも黒字にもなっている。

まず、2012ロンドン五輪は、約46億円の黒字と英国オリンピック委員会(BOA)から発表がされている。

続く、2016リオデジャネイロ五輪は、開幕前の時点で約124億~156億円の赤字と予測されたが、閉幕後の直後での収支は約72億円の赤字となったと言われている。

当時、ブラジルオリンピック委員会(COB)は「我々は絶対に赤字を出さないし、国にも州にも市にも一切迷惑はかけない」と宣言していたこともあり、負担を負うことになる州民から批判が噴出した。

実際、その後「五輪後遺症」とも言うべき財政難が起因し、リオデジャネイロの治安悪化が起きていると報じられたこともある。

ロンドン五輪最終決算は46億の黒字|日刊スポーツ2016年リオオリンピック・パラリンピック廃墟化するレガシー その2|笹川スポーツ財団を参照

それでは、東京大会ではどうなるだろうか。

まず、2020東京五輪のウェブサイトによると、V5予算については「東京都が負担する収支調整額を150億円計上」している。

つまり、現時点ですでに計150億円ほどの不足が生じており、都からの支出により穴埋めする計画となっている訳だ。

さらに注目しておきたい数字がある。それはチケット売上の900億円という数字だ。

V5予算は昨年末に立てられた数字であるため、このチケット売上900億円については、海外からの渡航客の受け入れ断念や、現在大規模イベントで実施されているような入場制限も考慮されていない。

そのため、チケット売上900億円を下回ることは、大筋で確定していると言っていい。

組織委員会はチケット売上の減少見込みについて明言を避けているが、来られなくなった海外客の分はもちろんのこと、今後オリンピックにおいても来場上限が定められるとするなら、数百億円規模の大幅な売上減は避けられない訳だ。

「リバウンド防止期間における催物の開催制限等|東京都防災ホームページ」より引用

先述の東京都がすでに負担することが決まった収支調整額150億円に加えて、今後見込まれるチケット売上の減少分が数100億円。これらを合わせて勘案すると、残念ながら2020東京五輪は、組織委員会の決算が黒字になることは難しいと言わざるを得ないだろう

その他の経費負担

次に「その他の経費負担」について説明していこう。「その他の経費負担」とは、ひらたく言えば、大会の準備・開催にかかる費用のうち、目的や用途がオリンピックに限定されない費用として、都や国が負担する部分のことだ。

例えば、東京オリンピックの会場施設となる新国立競技場などの恒久施設は、オリンピック後も使用されるものであるため、「その他の経費負担」として都や国が負担している。逆に、広報やマーケティングといった費目はオリンピックのためだけなので、組織委員会のみの負担となり都や国の負担は発生していない。

前回記事において、オリンピックレガシーに関する検証を行なってきたが、いわゆるハードレガシーとして遺る部分は、基本的にはこの「その他の経費負担」から発生しているとも言える。

では、「その他の経費負担」が具体的にどのような内容・金額になっているかを早速見ていこう。

組織委員会およびその他の経費|TOKYO2020」を参照

東京都は7,020億円、国は2,210億円をそれぞれ負担する計算となっている。ちなみに、新型コロナウイルス感染症対策関連についても、東京都が400億円、国が560億円を「その他の経費負担」として負担することとなっている。

そして、組織委員会の支出予算7,210億円と、都および国の費用負担を合わせた「東京オリンピック開催に向けた総支出」の合計は1兆6,640億円となっている。

基本的にオリンピック開催そのものは赤字

ここまでにオリンピック開催にかかる収支構造を「組織委員会の収支予算」と「その他の経費分担」に分けて解説してきた。

まとめると、オリンピックのためにお金をかけて色々な準備はするけれども、それらの中にはオリンピック以後も使えるものがあるから、その分はきちんと分けて計算しましょう、というのがオリンピックの収支構造だと解釈できる訳だ。

ただ、特に理解していただきたいのは、オリンピック以後にも使える「その他の経費負担」については、目的がオリンピックに限定されていないがために、「支出」の反対側にある「収入」は存在し得ないという点である。

そのため、オリンピック開催の直接的な収支が、赤字になるのおかしくはない。オリンピックの経済的な良し悪しは、副次的な「経済効果」とセットで考えなくてはフェアな評価とは言えないだろう。

重要なのは、オリンピック開催がもたらす「経済効果」

基本的には赤字となるオリンピック開催ではあるが、都市や国がオリンピックを招致するのには、別の重要な狙いがあるからだ。

ひとつが、前回の記事でご紹介した「オリンピックレガシー」。そしてもうひとつが「経済効果」である。

オリンピックレガシーについての記事はコチラ

「その他の経費負担」については、「支出」の反対側にある「収入」が存在しない。その代わりとしてこれらのメリットを見込めることが、組織委員会や都、国がオリンピックを開催する理由となっている訳だ。

著者は、東京オリンピックに対するアンチテーゼが拡大した補助的な要因として、これらオリンピックがもたらすレガシーや経済効果といったポジティブな効果に関する発信や議論が少ないことが挙げられると考えている。

2017年3月時点では、2020東京五輪の経済効果について、2013年(招致決定年)から2030年(大会10年後)までの期間で「需要増加額」が約14兆円、「経済波及効果」が東京都で約20兆円、全国で約32兆円とそれぞれ試算されている。

これらは東京オリンピック開催にかかる費用1兆6,640億円と比べると、かなり大きい数字だ。また、これらの経済効果は、インフラ整備などによってすでに出ているものも多い。

“実は、オリンピックを巡っては開催直前の方がGDPの押し上げ額が高く、2019年までに8割近くの経済効果は出ていると言えると指摘する。オリンピックが商業化した1984年のロサンゼルス大会以降、夏季オリンピックを開催した国の平均的な経済成長率の上振れを現在の日本の経済規模に当てはめると、GDPの押し上げ額は開催直前3年間の累計で+9.2兆円、開催年だけでも+1.7兆円となる。

開催直前3年間の方がGDPを押し上げる背景としては、主にインフラ整備への投資が進んできたためだ。過去の経験則にもとづけば、2019年までに13.8兆円程度の経済効果が出ており、株価もすでにそれを織り込み済みである可能性が高いという。|Forbes Japan

もちろん、大会の延期や観客数の削減、規模の縮小などにより、赤字拡大や経済効果の縮小が予測される。赤字になった際にその負担の矛先が向く可能性が高い住民からの批判ももっともである。

しかし、東京オリンピック開催が数10兆円規模の効果をもたらすこと、更に言えばすでに具現化されている経済効果に対してフェアな評価をし、広く周知をするべきではないだろうか。そうすれば、2020東京五輪に対する見方は、少し違っていたのではないかと想像する。

この記事が公開された時点(2021年6月15日)で、開催まで残り38日。
開催の是非、そして開催に至ったとしてその開催方法…。

2020東京五輪は、私たちそれぞれにとって何を遺すのだろう。

引用・参照

この記事に関するキーワード