いまこそ振り返る。東京オリンピックへのアンチテーゼ(3)~オリンピック開催が都市や国にもたらすレガシー~

※投稿したコメントは、投稿後5分間まで編集が可能です。
※誹謗中傷など、不適切なコメントはお問い合わせから運営まで通報ください。

開催まで残り2カ月を切った、2020東京五輪。

開催が近づくにつれて、米紙ニューヨーク・タイムズ英紙タイムズをはじめ、海外メディアで中止を促す記事が掲載されるようになってきている。

五輪開催のアンチテーゼとして、世論これまでの騒動について振り返ったが、そもそも、『2020東京五輪を開催することの意味や効果』はなんだろうか。

世論の移り変わりについてはコチラ
これまでの騒動についてコチラ

今回は『オリンピック開催が都市や国にもたらすレガシー』に注目し、1964年の東京オリンピックと比較しながら検証していく。

1964東京五輪のレガシーを振り返る

首都高速道路、東海道新幹線、そして国際空港

※首都高速道路|写真:gyro,Getty images

前回、東京オリンピックが開催されたのは1964年。

日本は高度経済成長期の真っ只中にあり、国として大きく発展していこうという社会的風潮があった。日本で初めての開催となる東京オリンピックはまさにそのシンボル的な存在であり、国全体で官民問わず「東京オリンピックのために」さまざまな開発が行なわれ、東京を中心とした都市基盤が整備されていった。

特に重要なのが『首都高速道路』、『東海道新幹線』、そして『国際空港』といった交通インフラの建築・再整備である。

これら交通インフラについては「1964東京オリンピックのために作られた」とするストーリーが実しやかに語られることが多い。

だが、実際にはたった数週間しかない東京オリンピックのためだけに交通インフラを計画・立案することは難しく、その多くが東京オリンピック開催決定前から「都市計画」として構想やプランが考えられていたものだ。

しかし、1964東京五輪はこれらの計画を実現に移し、工事を加速させるなどの効果を確かにもたらした。このことをもって「交通インフラは東京オリンピックのレガシー」と語ることが出来るわけである。

実際に、1964東京オリンピックの開催にかかった直接経費は270億円ほどだったが、交通インフラの整備にはその30倍以上、およそ9,600億円ものお金が使われている。

東京オリンピックがきっかけとなり整備・拡充された交通インフラは、その後さらに拡大を続けながら、現在に至るまで「国の大動脈」として私たちの生活を支えている

まさに我々市民が生活レベルで体感できるレガシーといえるだろう。

「聖地」となった数々の会場施設

写真:駒沢オリンピック公園総合運動場・陸上競技場|公益社団法人日本オリンピック委員会

日本で初めてのオリンピックとなった1964東京オリンピックだが、施設数だけで見ると、オリンピックのためだけに作られた施設は、会場施設全体のおよそ半数しかない。

1964東京五輪の顔であった旧国立競技場も、元々は1958年のアジア大会および1959年の東京国体に向けて整備された施設だった。

1964東京五輪のために作られた施設は国立代々木競技場など7箇所あるが、その多くが現在も様々な「聖地」として愛されていることが特徴的だ。

「五輪の聖地」としての呼び声が高い駒沢オリンピック公園はもちろん、代々木競技場はバレーボールやバスケットボールの聖地として今も全国規模の大会の決勝会場として使われている。

さらに興味深いのが日本武道館と渋谷公会堂だ。

これらはスポーツではなくコンサート会場の「聖地」として愛されている。オリンピックのレガシーがスポーツに限らず多様な文化に引き継がれている証といえよう。

なお、1964東京オリンピックの開催にかかった直接経費は270億円と先述したが、このうちの170億円がこれら会場施設の整備費に充てられている。

2020東京五輪は、どんなレガシーを遺すのだろうか

IOCが示す5つのレガシー

高度に近代化かつ複雑化した現代社会では、特に成熟しきった先進国の都市で開催されるオリンピックは、レガシーの内容も複雑で見えづらいものとなる。45年前の東京大会のような目に見えるハードレガシーの重要性が低い分、その他の部分のレガシーに目を向ける必要がある訳だ。

IOC(国際オリンピック委員会)は、2013年に発表した「Olympic Legacy Booklet」において、そういった多様なレガシーを5つに分類している。

2020年東京オリンピック・パラリンピック~レガシー創出に向けて~|笹川スポーツ財団

このIOCの分類をベースとしつつ、2020東京大会では5分野のレガシーを設定し、これらを達成するためのアクションプランが設定されているので、その例と特徴を見ていこう。

2020東京五輪が目指すレガシーの2つの特徴

東京 2020アクション&レガシープラン 2019|東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

2020東京五輪のレガシーの特徴は、『①ソフトレガシーに重きを置かれていること』、『②大会を「目的」ではなく「契機」として捉えていること』の2点にあると筆者は考えている。

特徴1:ソフトレガシーに重きを置かれていること

1点目については、「持続可能な低炭素都市の実現」や「水素社会の構築」などの構想的な目標に対して、高度な先端技術をもってどのように実現していけるかの指標を示すのが、成熟した都市である東京の役割なのだと解釈できる。

もちろん、すでにハード面でのレガシーを遺す重要性や余地があまりないことも、ソフト面でのレガシーに重きを置く理由となっているだろう。

ちなみに、同じく成熟した都市で二度目の開催となった2012年のロンドンオリンピックも、同様にソフトレガシーが重視された大会だ。

特徴2:大会を「目的」ではなく「契機」として捉えていること

2点目については、先述のとおり前回の1964東京大会では「東京オリンピックのために」交通インフラ等の整備や拡充が進められ、結果としてそれらがハードレガシーとして遺った。

それに対して、二度目の開催となる今回は、これまでに無かったり広まっていなかった技術や価値観、考え方を「東京オリンピックをきっかけとして」新たに広めていこうというのが大会の位置づけとして相応しいのだろうと解釈できる。

なお、ソフトレガシーに重きが置かれているとはいえ、ハードレガシーがほとんど無いということではないことを付記しておきたい。

2020東京五輪では、成田空港・羽田空港の機能向上や首都高速道路・自動車道の拡充などのインフラ面での整備も進められている。

2020東京五輪のレガシーは”分かりづらい”?

ここまで、オリンピック開催が都市や国にもたらす「レガシー」という観点から、1964年の東京大会と2020年の東京大会それぞれを見てきた。

端的にまとめると、前回の1964東京大会のレガシーは、高速道路や新幹線などの交通インフラや国立代々木競技場などのスポーツ・文化施設などの、目に見える分かりやすいハードレガシーが代表的なものであった。

それに対して2020東京大会のレガシーは、自足可能な低炭素都市の実現や水素社会の構築などの、構想的なソフトレガシーに重きを置いている特徴がある。

この2つの大会におけるレガシーの違い、より踏み込むなら2020東京大会のソフトレガシーの「分かりづらさ」が、原罪の東京オリンピックに対する支持率低下の一要因にもなっているのではないかとも筆者は考る。

スポーツ参画人口の拡大、ユニバーサル社会の実現、多様性に関する理解、高齢化先進国への挑戦、各地の観光産業活性化、etc…。これらは確かに重要なレガシーだと理解はできるが、ではこういった変化を国民が生活レベルで体感できるか(できているか)というと、なかなかYESとは言い難いだろう。

もちろん、構想的なソフトレガシーを遺すことには大きな意味がある。問題は、ソフトレガシーは見えづらいために国民には中々伝わりづらい点にあるのだ。

これは、東京に限らず今後、先進国の都市で開催されるオリンピックにも共通する問題になると考えられる。

今後はいかにして「分かりづらいレガシー」の価値を具現化して国民に伝えるのかを、開催都市はこれまで以上に検討する必要が出てくるだろう。

また、メディアや我々国民にも、経済効果や予算などといった分かりやすい指標だけではなく、質的な面からも大会を評価する姿勢が求められるのではないだろうか。

引用・参照

この記事に関するキーワード