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賛否巻き起こる、コロナ禍でのオリンピック開催の是非ー。
先日(4月15日)、自民党の二階幹事長が「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃいけない」と言及し、話題となった。
日本のみならず世界中で新型コロナウイルス感染拡大の収束がいっこうに見えてこない現状に対して、オリンピック開催など「それどころではない」と思いたくなるのが、率直な感情だろう。
しかし、本当に新型コロナウイルスや財政環境といった要素だけが、東京オリンピック中止論が拡大した要因なのだろうか。
実は、東京オリンピックへのアンチテーゼは、もっと前からその火種が燻り始めていたのではないか。
そこで4回に渡り、招致活動などを含めて長い年月に掛けて蓄積されてきた東京五輪に対する世論について振り返っていくことで、最近のオリンピックが抱え続け、目を背けてきた問題の輪郭を明らかにしていこうと思う。
まずは第1回目は、東京オリンピックに関する世論調査の結果から、支持・不支持の移り変わりを見ていこう。
2016年五輪の招致活動から振り返る|リオデジャネイロ84.5%、東京55.5%
リオデジャネイロ84.5%、東京55.5%。
これは、2016年のオリンピック開催都市の選定過程において、2009年にIOCの評価委員会が作成した評価報告書に記載された、各都市における支持率である。
2016年のオリンピックは、2007年の9月までに開催都市の立候補申請が行なわれ、東京を含む7都市が申請。翌2008年の6月までに「正式候補都市」として、「リオデジャネイロ」「マドリード」「東京」「シカゴ」の4都市まで絞り込まれた。
その4都市を対象に、IOCの評価委員会が2009年の4~5月に約1週間かけて行なった現地視察にてまとめた数字が、パラグラフの頭で示した数字だ。なお、マドリードはリオよりも高い84.9%、シカゴは67.3%と報告されている。
要は、そもそも日本では、オリンピック招致に対する支持率が高い訳ではないのだ。
実は、先述した開催都市の立候補申請の後、2008年1月以降に行なわれた「申請ファイル」の評価では、東京は7都市中で最高の評価を受けている。ところが、続いて翌2009年の4~5月のIOC評価委員会による現地視察に基づいた評価では、東京は4都市中3番目の評価まで順位を落とし、そのまま最終的な開催地投票で敗退している。
この「IOC評価委員会による現地視察」にて挙げられた懸念点のひとつが、まさにオリンピック招致に対する支持率の低さだった。
熱しやすく冷めやすい「国民性」
なぜ、日本ではオリンピックに対する支持率がそこまで高くないのか?
このことについて2016東京五輪の招致委員会がまとめた招致活動報告書を見ると、「国民性」と「成熟社会における志向の多様性」がオリンピック招致の気運醸成のハードルになると当初から想定されていた旨が記載されている。
ここでいう「国民性」とは何か。
2016東京五輪の招致活動報告書では、その具体的な内容までは書かれていないが、これは「熱しやすく冷めやすい」国民性のことを指すのではないだろうか。
というのも、2016東京五輪の招致活動報告書を見ると、たしかに当初こそ支持率の低さが目立っているが、その後は支持率が着実に増加しているのだ。
そして、東京都は2020年オリンピックの招致活動にも挑戦。悲願のオリンピック招致を達成することになる。
2020年の招致委員会が行なった調査からも、オリンピック招致に対する支持率が低い水準から上がってきていた様子が見て取れる。
2016年と2020年の、2度にわたるオリンピック招致活動。その間の支持率の上下動を見ると、「熱しやすくて冷めやすい」国民性が見て取れる、という訳だ。
コロナ禍前には、すでに冷めつつあった2020東京五輪の支持率
2020東京五輪の支持率については、さらに興味深いデータがある。株式会社電通が、2018年9月、つまりコロナ禍の前に実施された「みんなの2020調査」だ。
これは、(当時)2年後に迫っていた2020東京五輪に対する国民を対象とした意識調査であるが、この調査で尋ねられた2020東京五輪に対する支持率を見ると、賛成が52.4%、反対が18.8%、いずれもが招致決定前の2012年7月の水準まで落ち込んでしまっている。
せっかく高まった2020東京五輪に対する支持の熱量が、開催を待たずして元の温度の戻ってしまう。このこともまた、「熱しやすく冷めやすい」国民性を裏付ける事実だと言えるだろう。
もちろん、爆発的に盛り上がった招致決定当時と比べれば、時間が経てばある程度は支持率が落ち込むことは、自然な現象だと捉えられなくもない。また裏を返せば、元々高くはない支持率を短期間でIOCが認める水準まで引き上げられる手腕が日本の組織委員会や関係各所にはあるとポジティブに見ることもできる。
では、コロナ禍の向かい風を起きた現在はどうだろう。
コロナ禍のさらなる向かい風で”中止、再延期”の声が大きい2020東京五輪の支持率
2020東京五輪に対する支持率について、まず2021年1月にNHK、ANN、朝日新聞社がそれぞれ世論調査を実施している。さっそく数字を見ていこう。
あらかじめことわっておくと、これらの調査では、2020東京五輪に対する意識を「開催」「再延期」「中止」の3択で尋ねている。先に紹介した招致委員会等の調査では「賛成」「どちらでもない」「反対」の3択となっており、選択肢の意味合いが異なっているため、同じものとしての比較は難しい。
だが、「中止」を支持する層が35~48%もの割合で存在している点に、やはり注目せざるを得ないだろう。
2021年4月にテレビ朝日が行った世論調査では、「開催」が23%、「再延期」が32%、「中止」が41%となっている。すでに聖火リレーが始まっている影響もあるのか、「開催」のポイントが増加してはいるが、反対に「中止」のポイントは増加している。
ちなみに、昨年2020年3月に行なわれた同様の調査とも比較してみてみよう。日本テレビやテレビ朝日が実施した世論調査によると、この時点で「中止」を支持する層は10%もいなかった。
この1年でどれだけ”中止、再延期”の声が高まったのかがよく分かる。
まとめ
今回は、東京オリンピックに関する世論調査の結果から、支持・不支持の移り変わりを見てきた。
そもそも日本では、オリンピック開催に対する支持率がそこまで高いわけではないこと、また、招致活動が行なわれるたびに支持率は上昇するが、その後はまた元の水準に戻る。
この「熱しやすく冷めやすい」国民性があることが、世論調査の数字からは見て取れる。これこそが、現在の東京オリンピックに対するアンチテーゼの「火種」のひとつではないか、ということだ。
著者個人的には、東京オリンピックの「中止」は何としても避けて欲しいし、正直「形が変わっても、何とか開催さえできれば…」と思うところもある。だが、オリンピックの存在意義を振り返った時に、こうして数字として表れているアンチテーゼの「火種」は無視すべきものではないと考える。
次回は、この「火種」がどのようにして育まれ、現在の世論を形成してきたのかについて、招致決定後から現在に至るまでに発生・発覚してきた様々な「問題」を振り返ることで、整理していく。
引用・参照
- 2016オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書|特定非営利活動法人東京オリンピック・パラリンピック招致委員会
- 2020オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書|特定非営利活動法人東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会
- みんなの2020調査|株式会社電通
- 東京五輪・パラ「開催すべき」16% 先月より11ポイント減|NHK
- 世論調査(2021年1月)|テレビ朝日
- 五輪「再延期を」51% ワクチン接種「様子見」は7割|朝日新聞
- 世論調査(2020年3月)|日本テレビ
- 世論調査(2020年3月)|テレビ朝日
- 世論調査(2021年4月)|テレビ朝日
- 五輪「観客なしで」45%「制限」49% 朝日世論調査|朝日新聞社