【Politics for Olympic】「スポーツ施設」に関する政策について知ろう(後編)

来年7月から開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、政策とスポーツの関係について政府資料等を読み解きながら解説していく本企画。

第6回は、前回解説したスタジアム・アリーナ高性能化・多機能化・複合化について実際に取り組んでいる事例について、「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック<第2版>(スポーツ庁・経済産業省)」に掲載されている事例のうち3件に加えて、最新事例1件を加えてご紹介しよう。

前編、中編はコチラ

MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(広島県広島市)

広島カープ公式サイトより
建設方式公設
所有者広島市
運営方式指定管理者制度(株式会社広島東洋カープ)
施設内容野球場

スタジアムの高性能化という観点からはプロ野球・広島カープの本拠地であるMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)が有名だ。

平成21年(2009年)に開場したマツダスタジアムは、観客の満足度を向上するための様々な工夫が施されている。

砂かぶり席やテラスシートなどの観戦価値を高める多彩な観客席はもちろんのこと、ファールグラウンドを出来る限り狭くすることで臨場感を高めたり、スタンドの勾配を緩くし座席間の間隔を広くすることで移動の快適性も高めている。

また、あえて三塁側およびレフト方向の座席を減らし外壁を低くすることで、間近を走る新幹線からもスタジアム内を遠望できるほどに開放感も演出されている。

マツダスタジアムは広義で捉えると市の公共施設だが、建設にかかった整備費については、総額およそ145億円うち約6割を占める約87億円が球場使用料の収入で返済していく借入金で賄うスキームが組まれたほか、市民等による寄付金や地元経済界からの資金拠出など民間の財源も活用されている。

中長期的な計画および民間財源の活用により整備時の自治体等のコスト負担が大幅に抑えられている好事例と言える。

市立吹田サッカースタジアム(大阪府吹田市)

吹田市公式サイトより
建設方式民設(任意団体による建設)
所有者吹田市(任意団体による建設後に寄付)
運営方式指定管理者制度(株式会社ガンバ大阪)
施設内容サッカー専用球技場

マツダスタジアムと同じく、観客の満足度向上のための工夫が詰め込まれているのが、Jリーグ・ガンバ大阪のホームスタジアムである市立吹田サッカースタジアム(パナソニックスタジアム吹田)だ。

パナソニックスタジアム吹田の特徴は、まずピッチまでの距離の近さだ。タッチラインまでの最短距離7mは、4万人以上収容のスタジアムでは日本一短い(埼玉スタジアム2002は14m、豊田スタジアムは10m)。ボールを蹴る音はもちろん、選手同士がぶつかりあう音まで響いてくる距離感は、競技の迫力を最大限に高め、観客の満足度を向上する。

全席が屋根で覆われている一方で、芝生に日光が当たるように南側の屋根をガラス素材にする工夫がなされており、観戦価値向上と施設の維持管理機能の両立が図られている。さらに、吹田市からの要望により災害用備蓄倉庫が設置されており、避難所としての利用も可能となっているので、公共財としての多機能化も実現している。

また、パナソニックスタジアム吹田は、施設の整備費およそ140億円のすべてを、寄付金および助成金で賄った稀有な事例としても有名だ。内訳は約99億円が法人からの寄付金、約6億円が個人からの寄付金、そして残りの約35億円が国等からの助成金となっている。

さらに、施設の管理運営は指定管理者制度が採用されており、ガンバ大阪が指定管理者となっているが、その指定管理期間はなんと2015年から2063年まで。スタジアムやアリーナ等の大規模施設の場合、10年以上の長期で指定管理期間が設定されるのが通常だが、それでも約48年という期間は異例の長さだ。

加えて言えば、吹田市からは指定管理料が支払われない契約となっているため、吹田市は市の財源をほとんど使わずにスタジアムを建設・供用していることになる。まさに民間活力の活用の理想像といえるだろう。

オガール紫波(岩手県紫波町)

全国まちなか広場研究会ホームページより
建設方式公設(PFI等)・民設
所有者紫波町・民間
運営方式公営(委託等)・民営
施設内容バレーボール専用体育館、公民複合施設、役場庁舎等

マツダスタジアム、パナソニックスタジアム吹田ともに、事業スキームや機能の観点から見習うべき重要な事例だが、一方で施設名を見ても分かるとおり、地域の有力な企業のバックアップも事業推進の要となっているのも事実だ。

だが、そのような後ろ盾がない地域であっても、工夫の仕方次第で先進的なスマート・ベニューを生み出すことができる。その最たる例が、人口およそ3万人の岩手県紫波町にあるオガール紫波だ。

オガール紫波は、「オガールベース(体育館等含む民間複合施設)」「オガールプラザ(公民複合施設)」「役場庁舎」「オガール広場・大通公園」「オガールタウン(分譲住宅)」「岩手県フットボールセンター」などの施設が集合して構成されたエリアプロジェクトである。

その最大の特徴は、それぞれの施設ごとにPFI、代理人方式、定期借地などの様々な公民連携手法が用いられている点だ。ここまで有効的に公民連携手法が用いられている事例は少なく、日経BP総研が運営するウェブサイト「新・公民連携最前線」によるアンケート調査では、自治体による視察件数で3年連続の首位を獲得しているほどだ。

オガールベースは日本初のバレーボール専用体育館として、日本代表やVリーグの合宿地として利用されているほか、宿泊施設も併設されているためビジネスや観光の拠点としても利用可能だ。

さらにオガールプラザには図書館や情報交流館などの公共施設機能と、産直販売所やカフェ、居酒屋、医院、学習塾などの民営施設が混在している。

地域外からの利用者を呼び込める機能と、地域住民の生活を多様な面で支える機能がひとつのエリアに集積することで、まさにスマート・ベニューとして機能している模範的な事例だ。

有明アリーナ(東京都)

東京都公式サイトより
建設方式公設(PFI)
所有者東京都
運営方式コンセッション方式(SPC:株式会社電通、株式会社NTTドコモ、日本管財株式会社、株式会社アミューズ、Live Nation Japan 合同会社、株式会社電通ライブ、アシックスジャパン株式会社、株式会社NTTファシリティーズ、クロススポーツマーケティング株式会社、株式会社三菱総合研究所)
施設内容屋内スポーツ施設

2020東京オリンピック・パラリンピックの会場施設として昨年12月に完成したばかりの有明アリーナは、日本で初めてスポーツ施設においてコンセッション方式が導入された事例だ。

前回の記事でもご紹介したとおり、コンセッション方式とは公共施設等の運営権を民間事業者に設定する方式のことであり、有明アリーナの場合は電通を代表企業とした計10社による特別目的会社(SPC)が運営者となっている。

東京都は、運営権の設定により約94億円の対価をSPCから受け取っているほか、事業期間の2046年3月31日までの間、施設運営による発生する利益の50%も受け取れる契約なっている。都としては、施設の所有権を手放さずに公共施設の運営を任せ、利益を受け取れる美味しい形になっているが、これは有明アリーナのような中規模のアリーナ施設がコンサート開催に適しており、安定した稼働と売上が見込めるからであろう。

コンサート市場は右肩上がりで成長しており、開催会場を取り合う状況となっている。中でも天候に左右されないアリーナ施設、特にキャパシティが1~3万人程度の施設は人気が高く、新しい民間施設が続々と作られている状況だ。

同規模のアリーナ施設が多く作られる中で逆にコンサート招致に苦戦することも考えられるが、有明アリーナはSPCに芸能事務所やコンサートプロモーター企業が入っており、その点は強みを発揮できるはずだ。

一方で、有明アリーナはコンサート施設としてのスペックこそ高いものの、有明地域自体の開発がまだ途上であるため周辺エリアを巻き込んでの複合化には課題がある。また、鉄道アクセスも収容力の低いゆりかもめか、施設から遠い東京臨海高速鉄道りんかい線しかないため、数千~万単位の来場者をさばけるかも要検討だと言える。

まとめ

今回ご紹介した以外にも、官民問わずいくつもの革新的なスタジアム・アリーナ計画が進んでいる。スタジアム・アリーナ改革ガイドブックでは、国内の事例に加えて海外の先進的な事例も紹介されているので、ぜひご覧いただきたい。

引用・出典・参考

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