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来年7月から開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、政策とスポーツの関係について政府資料等を読み解きながら解説していく本企画。
第4回は、身近なスポーツ活動の拠点「公共スポーツ施設」と深く関係している政策である「指定管理者制度」について一緒に紐解いていこう。
指定管理者制度とは?
指定管理者制度:公共施設を民間企業等が管理・運営する制度
「指定管理者制度」とは、端的にいうと「自治体等が所有する公共施設を民間企業等が管理・運営する制度」だ。今回はスポーツ施設を題材にしているが、図書館や美術館、動物園、水族館、あるいは公立病院なども制度の対象となっている。
指定管理者制度は、自治体等が任意に導入できる制度であり、総務省の調査によると平成30年(2018年)時点で76,268箇所もの施設で指定管理者制度が導入されている。
そのうち15,215箇所がレクリエーション・スポーツ施設だ。
指定管理者による管理・運営の仕組み
自治体等が指定管理者制度を導入する場合、基本的には公募を行ない、企業等のプロポーザルに基づき選定する。
指定管理者として選定された企業等は、あらかじめ定められた期間(数年~数10年。「指定管理期間」という)、管理・運営を行うことになる。指定管理期間が終了する前に自治体等はまた公募を行ない、次期の指定管理者を選定する。
管理・運営の具体的な内容は、条例及び自治体等が公募時に定めた「仕様」の範囲内で、指定管理者のプロポーザル内容に基づき決まる。
例えば、スポーツ施設で開催される各種教室事業については、仕様で「この種類の教室をこのくらい開催してください」と定められているので、その内容に沿った教室は必ず開催される。それにプラスする形で、指定管理者は独自に企画した教室を開催することができる。
指定管理者制度で最適な施設管理を実現する
指定管理者制度の導入には、大きく分けて2つの目的がある。まず1つが「住民サービスの向上」だ。
そもそも自治体等は施設の管理運営のみを行っている組織ではないため、どうしても施設のサービス向上には限界がある。そこで、施設の管理運営のプロフェッショナルである企業等に管理・運営を任せてノウハウを活用してもらうことで、施設のサービス向上を図ることができる、という訳だ。
そして、もう1つの目的が「コストの削減」だ。
これも、施設の管理運営のプロフェッショナルである企業等であれば、施設の管理運営にかかるコストを削減するノウハウ等を活用できるだろう、という論理だ。また、利用者サービスが向上し利用者数が増えれば利用料金収入が増え、結果として施設の収支状況が良くなる効果も期待できる。
民間企業等が指定管理者制度に参入する理由
一方で、企業等が指定管理者制度に参入する理由も様々だが、特に大きな理由としては「安定した売上」と「宣伝効果」の2つが挙げられる。
まず、公共施設の管理運営は多くの場合、赤字経営だ。公共の施設であるために利用料金が低額に抑えられている一方で、施設の維持管理にかかるコストは大きいからだ。そこで多くの場合、指定管理者には「指定管理料」というお金が自治体から支払われる。
施設により違いはあるが、指定管理料は数千万円から場合によっては数十億円規模になることもある。これが、企業等にとっては嬉しい「安定した売上」となる訳だ。
次に「宣伝効果」だが、まず前提として、指定管理者になっても施設では自社の宣伝活動を積極的に行うことは出来ない。しかし、例えば施設のホームページやチラシ、パンフレット等に指定管理者として名前を載せることはできるので、いくらかの宣伝効果は見込める。
また、企業等にとって「自治体等の仕事を請け負っている」ことは、対外的に信頼性を高める手段になるため、コーポレートブランディングとして指定管理を請けていることをアピールする企業等もある。
公共スポーツ施設における指定管理者制度
公共スポーツ施設には、大きく分けて体育館や屋内プール、グラウンドなどの利用者が料金を支払ってスポーツをする「利用向け施設」と、スタジアムやアリーナなどの規模が比較的大きく、数千~数万の観客席があるような「観戦向け施設」の2種類がある。
それぞれの施設において指定管理者制度がどのように活用されているかを見ていこう。
「利用向け施設」における指定管理者制度
利用向け施設の場合、自社の事業としてスポーツ施設を運営している企業等が指定管理者になるケースが比較的多い。例えば「コナミスポーツクラブ」を運営するコナミスポーツは、北は北海道から南は宮崎県まで、全国各地の自治体で指定管理者として施設を管理・運営している。
利用向け施設においては、指定管理者は「ハード」と「ソフト」の両面でサービスアップの取組みを行うことが多い。
「ハード」のサービスアップとしては、例えば利用者が使う備品のバリューアップが挙げられる。トレーニングジムに入っている各種マシンを性能の良いマシンに入れ替えたり、空いているスペースを活用して小規模なリラクゼーションエリアを設けるなどの取組みが挙げられる。また、専用の会員システムを構築して利用者に提供する、というような取組みもある。
「ソフト」のサービスアップとしては、独自の教室事業やスポーツイベント事業の展開などが挙げられる。例えばフィットネスクラブを運営している企業等であれば、自社で展開している教室やイベントのノウハウを活用することで、公共施設でもフィットネスクラブで受けるようなレッスンを利用者が体験できるようになる。
ところで、指定管理者制度を導入すると、利用料金を企業等が決めることになり値上げが起きるのでは、と懸念する声もある。
しかし、基本的に利用料金は条例で定められており、指定管理者の独断で金額を変更することは出来ない。そのため利用料金は自治体の直営と変わらないことがほとんどだ。
つまり、企業等がきちんと管理・運営を行なっている指定管理施設では、利用者は安い金額でフィットネスクラブのような本格的なスポーツ実施環境を楽しめる、ということだ。
「観戦向け施設」における指定管理者制度
観戦向け施設における指定管理者制度活用の代表例は、来年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックの会場施設だろう。東京オリ・パラの施設の多くは自治体が所有する公共施設であり、新設施設も含め多くの施設で指定管理者による管理・運営が行われている。
観戦向け施設において指定管理者制度は、「大規模な専用施設を適切に維持管理できるノウハウ」に着目した運用がなされるのが一般的だ。
そのため、既存の施設で管理・運営の実績を積んだ業者が他の施設の指定管理者になったり(武蔵野の森総合スポーツプラザ、東京アクアティクスセンター等)、あるいは開館当初から同じ業者が管理・運営を続けていることが多い(東京体育館、東京武道館、埼玉スタジアム2002、横浜国際総合競技場等)。
こうした施設は、そもそも「観戦」が主目的であることもあり、施設を適切に維持管理することに主眼が置かれる。特に屋外施設の場合は、芝生の適切な管理が重要になってくる。
そのため、施設を活用した一般利用者向けの事業は、利用向け施設ほどに積極的には行われないのが普通だ。
まとめ
今回は、身近なスポーツ活動の拠点「公共スポーツ施設」と深く関係している政策である「指定管理者制度」についてご紹介してきた。
特に利用向けの公共スポーツ施設では、企業等が指定管理者として施設を管理・運営することにより、利用者は安い金額でサービスの高いスポーツ実施環境を楽しむことができる。
一方で観戦向けの公共スポーツ施設でも指定管理者制度が導入されている例は少なくないが、こちらは利用者の立場から指定管理者制度導入による効果を体感する機会はあまりないのが実状だ。
だが、そうした中でも、指定管理者としての立場を最大限に活用し、市民向けの事業活動を積極的に行っている施設もある。例えば茨城カシマスタジアムでは、指定管理者である(株)鹿島アントラーズ・エフ・シーが地域の健康増進のために、スタジアムを活用してインストラクターの指導によるプログラムを提供するなどの取組みを行っている。
実は、これまで「観戦するための施設」であったスタジアムやアリーナは、スポーツを通じた経済活性化、地域活性化を実現する基盤としての役割を求められるようになっている。次回は、スポーツ庁が平成28年(2016年)に公表した「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」をベースに、スタジアム・アリーナとスポーツ政策の関係と未来像について読み解いていく。
(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)