3000人の社員を抱え、”中”からDXを進めるDMM.com CTOの松本勇気さん、国内トップ企業のDX支援をしているテックベンチャーで”外”からDXを進めるALIS CTOの石井壮太さん。
エンジニアであり、経営者である気鋭のCTOであるふたりからDXとは『なにか』を見直していく。(前編はコチラ)
DXについていける企業とそうでない企業は、何が違うのか?
ALIS石井さん(以下、石井):2000年代にはついていけていた企業が、2010年代にはついていけない企業になっている、、、ということが起きているようにも感じているのですが、松本さんはどう思いますか。
DMM松本さん(以下、松本):その問題は「エラスティック(伸縮自在、融通が効く)」が重要なキーワードだと思います。
2000年代は、データセンターにサーバを詰めて、5-10年ぐらいの減価償却も考えながらシステムを構築していく状況でした。
一方で2010年代になってからは、殆どの人はAWSのEC2やS3を使って構築を始められる時代になりました。
リソースを柔軟に采配できるようになっていった。
すると継続して価値提供していくサービス的な発想だったり、外部に任せられるところは外部サービスに任せるようになっていく。
そして、自分たちに残るものは「改善能力」になってきたのかなと思います。
もうひとつのパラダイムシフトとして2006-2008年ぐらいから、Hadoop(大規模データの分散処理を可能にするオープンソース)などが出てきて、大規模データ分析が可能になったことです。
いままではざっくりとしたサイト分析だったものが、大規模データから各ユーザーの細かな動きをデイリーでモニタリングできるようになった。
この『リソースを柔軟に采配できるようになったこと』、『データを活用できること』によって、自身のサービスの強みを尖らせることが可能になって、スタイルが変わったため、ついていける企業とそうでない企業に別れてしまったのではないでしょうか。
石井:いま、減価償却の話が出ましたが、肌感覚として『古い情報資産を持つ企業ほど、いまのトレンドに対応出来ていない』のを感じますね。
新しい企業の方が何もないのでデジタル化しやすく、古くからある企業は下手にレガシーを持つが故に変わることができない。
当たり前ですが、考えている以上にそれが重いというのを大企業のDX支援をしていて思い知らされますね。
DXの壁となる『組織のもつれ』
――レガシーの話が出ましたが、最初に石井さんは『組織構造のもつれ』について、より深くお伺いさせて下さい。
石井:それを説明する際によく『コンウェイの法則』を例にとるのですが、これは「システムを設計する組織は、その構造をそっくりまねた構造の設計を生み出してしまう」というものです。
石井:これは経験則的な法則なのですが、物理法則なのかと思うぐらいに殆どすべての組織に当てはまります。
組織構造のもつれがレガシーシステムを変えられない、レガシーシステムが変えられないから組織構造も変えられないという状況が起こりがちです。
石井:デジタルイシューの手前に組織構造のもつれを解決する必要性があり、結果的にDXは技術・組織・文化・事業・経営など全てで取組む総合格闘技になります。
そのため、経営陣の強いコミットメントが必要不可欠になると実感しています。
ただ、経営陣や組織幹部もそれぞれの考え、リテラシーや立場の違いもあるため、会社として「DXやろう!」となっても、DX支援をしている中で現状維持バイアスが大きく、変えられないことも多く、泥臭くスモールサクセスを積み上げていっています。
そうして徐々に意識改革を図っていきたいなと。
松本:総論賛成、各論反対なシチュエーションは起きがちですね。
石井さんが仰っているように内部の人間としてDXをしている立場としても、中の人を変えていく必要性はあります。そのため『組織内のヒトの分析』はとても重要です。
特にヒトとヒトの利害関係分析は徹底的にやっています。
その人の仕事上のモチベーション、評価ポイント、評価制度上の目標変数、いまの課題、何をしたら喜ぶのか。そういったこと分析していくことで、誰も不幸にならず、最速で、低コストで、喜ばれるポイントが見えてくる。
それを実行していくことでみんなの目線が「あ、こんな成功が発生するのか」という風に変えていくようになっていきます。
実際にDMMに入ってから一か月はずっと各事業部の話を聞きまくって、それぞれの利害関係分析をして、壁に貼りだして、どこなら改革しても問題ないかを突き止めるのに時間を費やしました。
石井:松本さんはもっとスマートに解決していくイメージでいたのですが、非常に根気強くやられているんですね。
松本:とにかく敵をつくっちゃいけないと思っているんです。
「総論賛成、各論反対、かつ敵がいる」というのは最悪の状況ですよね(笑)どうしようもないデッドロックが発生する可能性があるので。
すべての場所に敵にならず、メリットをつくってあげる。
そのメリットを理解するのが改革の第一歩だと思っています。
で、その際にコスパの最も高いところを見つけるのは大事ですね。「ここを解決すると改善スピードがぐっと上がるぞ!」という。
――松本さんが過去のインタビューで「飛び道具はない」と語っていましたが、正にそういう領域のお話ですね。
松本:飛び道具は完全買収しかあり得ないですね。
完全買収であれば、役員入れ替えから、事業売却から、色々な飛び道具が可能です。ただ、そうでない場合は小さく切り出して解決するしかないと思います。
全体に密結合にもつれていて、そのままでは解決できないことも、全体から切り出して解決することで成果に繋がることはありましたね。
石井:マイクロサービスの考え方は技術だけでなく、組織にはめていくことができると思っています。
密結合のところを切り出して、改善を加速していくことができるかなと。
ちなみに松本さんは人の分析を徹底的にやると仰っていましたが、なにかその際にフレームワークなどを用いたりしていますか。
松本:ネットワーク的に人を捉えるということを重視しています。
人って自分で動いているようで、ネットワークに影響されるし、人の影響をネットワークも受けると。攻殻機動隊の中で似たような話が出ていましたね。
人の意思決定基準は色んな所に散らばっています。
どこが有機的に繋がっていて、「AさんとBさんは仲が良くないから、下手に刺激すると対立を生む」とか、そういうことが大事で飲み会の予定を聞いたりとかもそれを知るために必要な会話ですね。
石井:まさか、それを全ノードに対してやってるんですか。
松本:流石にいまは社員が3000人いるので、主要なノードのみですね(笑)
大体、上から順に当たりをつけて、その人に「次に誰聞いてみたらいいですか?」と聞いたりしています。
この辺りは、本当に泥臭く、根気強くやっていくしかないです。
「DXの本質」は、どこまで行っても”経営”と”人”の話だ
――おふたりのお話をここまで聞くと、前述された「ちゃんと商売せい」ということに帰結するように感じます。なんというか「デジタルを通じて、組織の本質を見つめ直す」のがDXなのかなと。
松本:第一歩はそこにあります。
本日も会社の強みを尖らせるという話をずっとしてきたと思っていて、会社の強みがどこにあるのかを洗い出して、そのために大切にする価値観や判断基準や指針がまずは必要です。
DMMでも『DMM Tech Vision』を掲げています。
悩んだら『Agility(敏捷性)』、『Scientific(科学的)』、『Attractive(魅力的)』、『Motivative(意欲的)』の価値観に沿って動いてくれと。
松本:そうすることで、全員が日々の中で伸ばすべき方向性を揃えられます。
逆説的に強みとそのために大切にすべき価値観を知っておく必要性があります。もちろん、それが文化、組織改革、評価制度など強みを尖らせるための人への投資を惜しまないことが大事です。
石井:全く同感です。
最初に『デジタルの課題』が前に出過ぎてしまっていて、無意味なPoCなどを繰り返して、なんとなくのDXやった感に陥りがちですが、組織や人についての課題を解決していく必要性がDXにおいては比重が大きいですね。
――方針や課題設定によってチームをどこに方向づけるかはとても重要ですね。ただ、特に文化については不定形的で変えるのが難しそうですね。
松本:文化って勝手に出来上がるもので、経営陣側が無理やりインストールするものではないのですが、みんなの意思決定を方向づける力場づくりは大切です。
「悩んだらこっち!」が、揃っているチームは、そうでないチームと比べて物凄くスピードの差が生まれます。
グノシーでは「データは神より正しい」と言い続けた結果、全メンバーが日次でKPIを理解して、営業メンバーも昇進する人は全員SQL叩ける、、、みたいな超データドリブンな会社になりました。
強みを尖らせるというのはそういうことで、強みを明文化してあげて、戦略パッケージに落とし込まれていくことで、組織が同じ方向に動いていけます。
石井:よく数字に落とし込まれていないという会社も見かけますね。数字に落とし込めていないと、なんとなくの計測と改善で、なんとなくの結果に終わるという。
松本:方向性を揃えて、「その方向に上手く進んでいるかどうか」の基準を明確にするという2つの切り口で考えることでようやくこっちに進んでいいと人は理解できるようになります。
松本:「あの太陽の沈む先を目指そう」といっても分かりにくいので、コンパスで方角を明確にし、あの電柱まできょうは進んだら上手く進んでいる、といったマイルストンを置いていくと。
それが、器である企業の役割ですね。
――なんだか、DXってデジタルと言いながら、殆ど企業改革の話みたいですね(笑)
松本:『コード書いて終わり』という世界ではないですからね。
9割以上がウェットな企業改革の部分で、残り1割未満でコード書くぐらいの比率かな、って感じですね。
石井:本当にそうですね。
――DXはまだまだ遅々としている印象ですが、これからどのように広がっていくのでしょうか。
石井:そう簡単には広がらないだろうなとは思っています。徐々に進んでいますが、そのスピードが遅いと感じています。
そういう意味では、いま話題に挙がっているデジタル庁という国の大本が上手くデジタル化していくことで国内全体の士気が上がり、スピーディに進んでいくことには期待しています。
そして、折角ならワクワクしながら進めらていけたらと思っています。
松本:進めていくにはリーダーの存在が最も重要だと思っています。
つまり「CTOを採用しよう」と言いたいですね。
外に頼るのは過渡期として、ベンダーコントロール以外に組織設計、ソフトウェア設計をして、データを活用して継続的に改善していくことができるCTOが第一歩目あるべきと思っています。
そういったCTOが色々な組織にいる状態ができることが大事です。
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【DMM×ALIS】気鋭のCTO2名と一緒にDXの在り方を見直そう。(前編)をお見逃しの方はコチラ
(取材:深山 周作、今井 清香、編集・制作:深山 周作)