【3分解説】ポストコロナ時代の科学技術・イノベーション政策

科学技術とそれに伴うイノベーションは、私たちの生活にさまざまな形で影響を与え、利便性を向上してくれる。そして、経済、各産業の成長においても重要事項だ。

つまり、国力を牽引する重要なファクターとなる。

国もその重要性から約25年前に「科学技術基本法」を制定して、政策を実施してきた。

当時、世界企業の時価総額の上位ランキングは、「科学技術基本法」が制定された当時日本の製造業が上位に多くランクインしていた。

では、現在の日本の状況はどうだろう。
結果から見てみよう。

有名な話ではあるが、先に挙げた時価総額を見れば、当時には存在すらしていなかった IT 企業が上位を占めている。

平成最後の時価総額ランキング。日本と世界その差を生んだ30年とは?(STARTUP DB)の図表を抜粋

もうひとつの具体例として、モバイルデバイス、つまり携帯電話・スマートフォンの世界を挙げたい。

10数年前は、何社もの国内メーカーが、オリジナリティ溢れる先端技術をつぎ込んだ自社商品を毎年のように生み出していた。

だが、今あなたの手元にあるスマートフォンは、どこの国のメーカーのものだろうか。

IDC「2020年第1四半期 国内携帯電話・スマートフォン市場実績値を発表」及びBUZZAP!「まさに栄枯盛衰、携帯電話メーカー各社のシェアを2001年から振り返ってみた」を基に作成。

残念ながら、日本の科学技術やそれに伴うイノベーションは、かつての姿と比較すれば、その勢いがすでに衰えてしまっているのが実状だと言える。

事実、将来的に世界中で使われるだろう先端技術の開発に関して中国やアメリカが熾烈な争いを繰り広げている中、日本の企業は太刀打ちできているとは言い難い状況だ

この厳しい状況を日本政府はどのように捉え、今後どのように科学技術・イノベーション政策を進めていくのか。

これを知るため、25 年ぶりに法改正もされ、名称も新たになった「科学技術・イノベーション基本法」を基とした「科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性」のポイントを解説していこう。

25年続いた科学技術基本計画の大規模な刷新

まず、経緯を理解するために前身となる「科学技術基本計画」についておさらいしよう。

科学技術基本計画とは、科学技術基本法(のちの科学技術・イノベーション基本法)に基づいて、政府が5年度おきに策定している計画だ。第1期が平成8年度から始まり、令和2年は第5期の最終年度にあたる。

内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣や有識者(大学や民間企業の人材)などにより構成される「総合科学技術・イノベーション会議」を数回開催し、計画の中身を決めていく。

そして、令和2年8月末、根拠法も改正され、名称も変更し、大規模に刷新された「科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)」がまとめられた

この背景には、日本の科学技術・イノベーションに対する大きな危機意識と社会構造の大変革がある。

それでは、その中身に入っていこう。

国家間の覇権争いに遅れる日本

文書は、現在の科学技術・イノベーション政策を取り巻く状況を振り返えるところから始まる。

諸外国と比較した日本の科学技術・イノベーション政策が遅れをとっていることが危機感を持って触れられ、社会課題やデジタルイノベーションといった社会情勢について触れている。

科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)を基に作成

特にここ数年で顕著なのは、国家による覇権争いの激化だ。

最近でいえば、次世代通信規格「5G」をめぐるアメリカと中国の主導権争いが象徴的な事例だ。これら2か国が科学技術、特にIT技術に関しては最先端であることも意味する。

そのひとつの指標として、5Gに関する特許出願数を見てみると、中国のファーウェイやZTE、韓国のサムスン電子、アメリカのインテルやクアルコムなどといった企業が上位にランクインしており、日本の企業はあまり芳しくない。

※出所:令和元年版通商白書 2019.7を基に作成

また、新型コロナウイルスの感染拡大が、皮肉にもこれまで進んでこなかった「テレワーク」が広まる契機となっている一方で、日本社会のデジタル化の遅れも露わになっている。

核となるSociety 5.0を通じた「Japan Model」の確立

ここまで述べてきた現状認識をベースに次期基本計画に向けた5つの方向性、そしてその先にある「Japan Model」について示されている。

これが計画とそれに紐づく政策の目指す北極星であり、核となる。

科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)を基に作成
科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)を基に作成
科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)を基に作成

政府の目論見は、科学技術・イノベーションの振興を「Society 5.0」とその過程で生まれる「Japan Model」をどのように国外に広げて波及効果を高めるかにあるのだろう。

そして、そのための土壌づくりを徹底してやっていく姿勢が伺える。

土壌とは、ルール・制度・規格、次世代インフラ(ネットワーク・エネルギー・交通・宇宙システム等)、市場・投資環境整備、データ基盤、それをリードする人材を指す。

その土壌の上で研究事業への投資を促進することで「Japan Model」を築き、国際競争力をつけていくというストーリーが「科学技術・イノベーション基本計画」に盛り込まれている。

それぞれの項目は文書でさらに詳細が述べられているため、ここまでの内容に気になる点がある方はぜひ本文もチェックすることをおススメしたい

まとめると、日本はここ数年Society 5.0という社会の未来像を掲げてはいるものの、科学技術・イノベーションの活用がうまくいっていない状況にある。

そしてその要因は科学技術・イノベーションのメリットをうまく享受できない、あるいは活かしきれないようなシステムの作り方や運用方法にあると考えられる。

遅れを取り戻すべく日本の科学技術・イノベーション政策は、来年4月から新たな基本計画期間に突入する。

サイバー空間とフィジカル空間の垣根を取り払う前に、フィジカル空間における様々なしがらみを解きほぐし、政府が主体となって政策を推し進めることができるのか。

国家間の覇権争いが激化する現代においては、「科学技術・イノベーション政策」がどのように実装されていくかも新政権に対する重要な評価指標になってくるといえよう。

(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)

現在、ソーシャル政策メディアPublingualの公開記念として全オリジナル記事を1カ月間全ユーザーに公開しています。コメントやPickUP機能が利用できるようになるため、まずは無料の会員登録よろしくお願いします。

(会員登録はこちら)

引用・出典

この記事に関するキーワード