地方創生は以前からその必要性を認識されてきたが、どのように持続可能性を保ちながら地方の活性化を推進できるかが課題とされてきた。
案件のひとつずつを見ると短期的なものや結果的に東京の企業に税金が還流している構図になりがちな地方の活性化という課題をSDGsと結びつけることで、どのように長期的な視点を獲得できるのか見ていこう。
40道府県で人口減少
我が国の総人口は2011年以降、9年連続で減少している。また、「出生児数-死亡者数」で算出される自然増減を見ると、第2次ベビーブーム期である1971年~1974年以降減少が続いており、出生児数が死亡者数を48万以上下回る結果となっている。
人口の増減率を見ると、都心や大規模地方都市がある地域とそうではない地域で大きな差が見られる。例えば、東京都+0.71%、神奈川県+0.24%、滋賀県+0.11%などプラスを維持している一方で、秋田県-1.48%、青森県-1.31%、高知県-1.15%、山形県-1.15%などを筆頭に40道府県で減少が見られる。
地方創生の歩み|国のこれまでの取り組みを振り返ろう
次に、国が実施してきた地方創生の取り組みの時系列について振り返っていこう。
まず、国が策定した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、国の長期ビジョンとして2060年に1億人程度の人口を維持することが目標として掲げられた。また、地方への財政支援としては、地方創生関係の交付金が新たに創設されている。
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は2015年版から毎年策定されているが、2020年はコロナの影響を踏まえ、雇用の維持や事業の継続、デジタル化の遅れを反省したデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進などが盛り込まれている。
地方創生とSDGsの関係
このように政府は地方創生に関する戦略や方針を決定し、地方に対する財政支援を行う一方で、「地方創生SDGs」の推進も同時に推進している。
2015年にニューヨークの国連本部で開催された『持続可能な開発サミット』において、SDGs(持続可能な開発目標)は地球規模で取り組むべき目標として全会一致で採択された。
日本ではSDGs達成のため、優先的に取り組むべき8つの優先課題を設定している。
また、2019年に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」では、
- SDGsの普及推進
- モデル事例の形成
- 官民連携の促進
- 地方創生SDGs金融の推進
の4つに取り組むことが掲げられている。
また、政府は平成30年度から、「SDGs未来都市」を選定している。SDGs未来都市とは、SDGsの取り組みを推進する自治体の中でも、特に経済・社会・環境の3つの課題を解決する優れた取り組みを行う自治体を政府が選定するものだ。
SDGs未来都市に選定された自治体は、政府の支援をもとにSDGs達成に向けた計画を策定する。計画へのサポートには有識者や各省庁からのアドバイスを得られるほか、取り組みに対する進捗評価にも政府からのサポートと得ることができる。
さらに、SDGs未来都市の中から、「自治体SDGsモデル事業」が選定される。この事業は、経済・社会・環境に相乗効果をもたらしながら地域での自立的な好循環を創出することが見込める事業と定義される。
SDGsで掲げられている、地域社会の多様なステークホルダーを意識した取り組みが反映されていると言える。
SDGs未来都市の実態|個別の事例から
内閣府地方創生推進事務局によると、令和2年度のSDGs未来都市に選定された自治体は33都市、そのうち自治体SDGsモデル事業に選定された自治体は10都市となっている。
出典:2020年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について|内閣府
例えば、自治体SDGsモデル事業に選定された大阪府大阪市では、「大阪ブルー・オーシャンビジョン」プロジェクトを掲げている。
当プロジェクトでは海洋プラスチックによる環境汚染を課題とし、バイオプラスチックビジネスの創出やマイボトル・マイバッグの普及促進、海洋漂着ゴミの実態調査を行うことで、経済・社会・環境の3要素からなる地域課題を解決しようとしている。
また、宮城県石巻市では、「コミュニティを核とした持続可能な地域社会の構築」として、市内の半島沿岸部における交通手段の不足等の課題解決に取り組んでいる。
石巻市では、地域交通情報アプリケーション(ローカル版MaaS )の構築や、災害時にも電気が途切れないグリーンスローモビリティを活用し、環境に負荷をかけずに地域の持続可能なモビリティを確保する取り組みを行う。
このように、自治体SDGsモデル事業では、SDGs理念である「誰一人取り残されない」地域開発を行うとともに、多様なステークホルダーを巻き込んだ取り組みがなされている。
SDGsの理念を地域社会で実現するためには、個別の課題の掘り起こしが必要になる。自治体SDGsモデル事業は、まさに地域それぞれの実態に即したSDGs達成への草の根運動と言える。