【Politics for Olympic】大学スポーツがお金を生む?「UNIVAS(ユニバス)」について知ろう。

来年7月から開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、政策とスポーツの関係について政府資料等を読み解きながら解説していく本企画。

第6回は、スポーツの政策やビジネスで話題のトピックスのひとつ「大学スポーツ」について、政策主導で作られた大学スポーツの統括組織UNIVASを題材として解説していこう。

日本の大学スポーツを変える「UNIVAS」

UNIVASとは

まずは、今回のメインテーマである「UNIVAS」について解説しよう。
UNIVASとは、正式名称を「一般社団法人大学スポーツ協会」といい、「大学スポーツの更なる価値を発揮させるため」につくられた大学横断的かつ競技横断的統括組織だ。

アメリカの大学スポーツ統括団体であるNCAAをモデルに構想され、およそ3年にわたるスポーツ庁での検討会議により具体的な内容が固まっていった、政策主導でつくられた組織である。

※引用:一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)設立にあたり長官談話【平成31年3月1日】より

UNIVASには、運動部を持つ全ての大学が加盟でき、加盟することでUNIVASが提供する様々なサービスを受けたり、UNIVASが主催する競技横断型大学対抗戦「UNIVAS CUP」に参加できたりする。

一方でUNIVASは大学スポーツ全体をマネジメントしながら様々な事業を展開するなどして収益を上げ、それを大学スポーツの振興等に活かしていく仕組みだ。

2020年現在、日本にはおよそ800校弱の大学があるが、そのうちの221校が加盟大学としてUNIVASに参加している。

また、本国アメリカのUCAAにはない特徴として、各競技の国内統括団体(NF)も加盟団体として参加できる仕組みになっており、こちらは現在、32団体が加盟している。

UNIVASが創設された背景:日本の大学スポーツのポテンシャル

※出典:一般社団法人 大学スポーツ協会(UNIVAS)設立概要より

なぜ、スポーツ政策の一環として大学スポーツを統括するUNIVASが作られたのか。

大学スポーツの振興にはさまざまな社会的意義があるとスポーツ庁は説明しているが、中でも「スポーツの経済的価値の拡大」は非常に重要なポイントだと捉えて良いだろう。

実は、かつて大学スポーツは、プロスポーツと同等あるいはそれ以上に集客力があるコンテンツだった。

例えば野球は、元々学生のスポーツとして普及してきた歴史があり、第二次大戦後までは職業野球(プロ野球)よりも大学野球の方が人気が高かった。大学野球の人気をけん引してきた東京六大学は、現在も学生スポーツで最大の人気と商業的規模を誇るコンテンツとなっている。

また、ラグビーの早明戦や箱根駅伝など、プロスポーツに匹敵する大学スポーツコンテンツは他にもいくつも存在するほか、サッカーやバスケットボールなど、プロのカテゴリは商業的に成功している中で大学スポーツはあまり目立っていない競技もまだまだある。

大学スポーツのビジネス的な潜在価値を最大化することができれば、スポーツの経済的価値の拡大につながる。そのための手段として、大学スポーツ全体を統括するUNIVASが設立されたという訳だ。

海外での成功事例:全米体育協会(NCAA)

UNIVASの設立に際しては、海外での先行事例がモデルケースとして検証された。中でも特に有名なのが、アメリカの大学スポーツ統括団体である「NCAA(全米体育協会)」だ。

アメリカ国内の大学の半数以上、およそ1,200校が加盟するNCAAは、今から100年以上も前に設立された。元々は当時頻発していた試合中の事故に対応すべく、競技規則の管理等を目的として設立された組織だが、次第に管轄する種目や大学の数が増加。

また、自らが主催となって大会等を開催するようになっていった結果、全米規模でのマネジメント体制が構築されていき、年間約1,000億円もの収入がある大規模な商業的組織が完成している。

またアメリカでは、各大学においても専門の部局が存在し、独立採算で大学スポーツをマネジメントしている。その予算も日本の大学スポーツと比べて桁違いに多く、中には1年あたり100億円以上もの予算を持つ大学も存在するほどだ。

日本の大学スポーツの現状

日本の大学の場合、大学スポーツは「課外活動」であるため、一部の大学を除いて大学当局は運営にはあまり関与してこない。大学スポーツの運営は専ら、部員やマネージャー等の当事者である学生自身によって行なわれている。

もちろん、同じ大学生自身による運営であってもそのレベルには違いはあり、先述のとおり商業として成立するレベルの運営が行なわれているコンテンツもあるが、多くの大学スポーツの現場は有志の学生によるボランティアによってかろうじて保たれているのが現状だと言えよう。

このことは、平成28年5月に行なわれた「大学スポーツの振興に関する検討会議」において全国大学体育連合が示した資料でも言及されている。

※引用:大学スポーツ振興に関する全国体育連合の取り組み状況と課題(全国大学体育連合)より

NCAAのような大規模な商業的組織になるための道のりは遠いが、全国を網羅する形でのマネジメント体制が整えば、各大学における大学スポーツ運営の整備が促進される効果が期待できる。

各大学における好事例が互いに共有されるようになれば、切磋琢磨的にレベルアップしていく好循環も生まれるだろう。これらも、UNIVASが目指す大学スポーツの理想像である。

UNIVASの事業と施策

では、UNIVASは具体的にどのような事業を展開しているのか?

スポーツ庁が公開している資料「2020年度事業計画」によると、2年目となる2020年度は5つの事業展開と、事業展開を支える6つの施策展開が計画されている。なお、本事業計画は新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、一部が執行保留となっている。

※資料:UNIVAS「2020年度事業計画」より

事業計画5の柱

まず事業計画5の柱を見てみると、5つの取り組みのうち(1)、(2)、(4)はUNIVAS会員の大学運動部向けの取り組みであることが分かる。

とりわけ現在、UNIVASが積極的に展開しているのは、学生アスリートのデュアルキャリア形成に関する事業だ。これは1年目から具体的に動き出している事業であり、新型コロナ前の昨年度は、運動部の管理者や指導者向けの研修会が6回にわたり開催され、318名が参加している。今年度はオンラインという形ではあるが、同様に管理者・指導者向けのセミナーのほか、学生スタッフや学生アスリートを対象とした各種セミナーも開催されている。

また、新型コロナの影響により様々な対策を迫られることになった今年は、安全安心なスポーツ環境整備の推進事業として、新型コロナに関する各種取り組みもUNIVASで進められてきた。

計6回に及ぶ感染防止対応の現状調査をはじめとして、感染症対策のガイドラインの策定・公表や相談窓口の設置などにより、多くの大学運動部に有益な情報提供が出来たことは、UNIVASの果たした大きな役割だ。

一方で、それでも一部の大学で運動部の学生寮がクラスターとなってしまった点は、今後UNIVASおよび大学が検証すべき課題だと言えよう。

事業を支える6施策

次に事業を支える6施策について見てみよう。

ここにはUNIVASの事業実施体制に関する取り組みが並べられているが、特に注目したいのは(1)の「新たなパートナー開拓の推進」だ。

というのも、大学スポーツのビジネス化を大きな目標として設立されたUNIVASだが、現時点でその収入源はパートナー企業からの「パートナー費」が大部分を占めているのが現状だからだ。2020年度収支予算書を見ると、およそ9億円の事業収入のうち、8割以上の7億5千万円がパートナー費による収入となっている。

UNIVASのパートナー企業は、UNIVASの理念に共感し、UNIVASの各種活動に対して専門的なノウハウを提供してくれる重要な存在だ。一方で、収入源の大半がこれらパートナー企業からのパートナー費を占めるということは、すなわちUNIVASがアメリカのUCAAのように、独自でマネジメントできる収益源となる事業を有していないことを意味する。

これではUNIVASが当初の目的としていた「大学スポーツのビジネス化」に向けて、やや頼りない印象を受けてしまう。後述するとおり、この点を危惧する専門家の意見も存在する。

とはいえ、各大学、各競技団体がそれぞれ権利をもって独自の運営をしてきた日本の大学スポーツにおいて、いきなりUNIVASが横断的に事業を立ち上げるのは困難を伴うのも事実だ。そこで、まずはUNIVASができる範囲から具体的な事業を進めていき、徐々にUNIVASの理念に賛同してくれる団体、競技団体を増やしていくしかない。
そのためにも、UNIVASの活動を支えるパートナー企業の開拓は必要不可欠な要素だと言えよう。

UNIVASの現状と課題

年間収入1,000億円の巨大組織NCAAを参考として創設されたUNIVAS。まだ設立2年目であるUNIVASに関しては評価するのは時期尚早という考え方もできるが、実は設立前から、大学関係者等から批判の声が上がっていた事実もある。

たとえば大学スポーツの強豪校である筑波大学の学長・永田恭介氏は「UNIVASの理念や目的には賛成」と前置きをした上で、UNIVASに大学とNFの両方が加盟できる仕組みになることで、大学とNFの対立が生じる可能性について指摘している。

学生の本分守れない 大学スポーツ協、有力校が不参加|日経オリパラSelect

また、UNIVASの設立準備委員会で主査を務めた株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長・池田純氏も、UNIVASの組織構成が日本的な協調性を重視し過ぎているとし、当初の目的であった「大学スポーツのビジネス化」というビジョンが薄れている現状を危惧している。

“日本版NCAA”とはほど遠い大学スポーツ統括新組織「ユニバス」の実態|ダイヤモンドオンライン

もちろん、これらはあくまで設立前もしくは設立直後に上がっていた懸念の声であり、その後実際に設立・運営されているUNIVASの現況とは異なっている点も存在する。

だが、例えば永田氏が指摘していた「大学とNFの両方が加盟できる」状態はそのまま採用されていたりなど、いくつかの疑問点を解決できないままにUNIVASが動き出していることも事実だ。

そういった事情もあってか、UNIVASには筑波大学をはじめとして慶應義塾大学や同志社大学、開催学院大学などのスポーツ有力校が依然、不参加となっている。

UNIVASの知名度向上こそがファーストステップ

地方の国立大学と、都市部の私立大学の大学院と、環境がかなり異なる大学に身を置いていた筆者の経験則から、UNIVASに関する問題点として「大学スポーツに対する温度差」を指摘しておきたい。

今回の記事の中では、大学スポーツにはプロスポーツよりも繁栄していた時代があること、また現在もプロスポーツ並みの集客力を誇るコンテンツもあることなどをご紹介してきた。

しかし、こういった実力や人気のある大学というのは、ごく一部に限られる特例であるというのが筆者の実感だ。都市部の有名大学では、多くの学生が野球部の試合を観戦に行き、リーグで優勝すればパレートも行なわれる。

しかし、地方の大学では、野球部がどこで試合をしているのかを知っている人の方が少ないのが実情だ。

大学スポーツの世界にこうした温度感がある中で、UNIVASの理念や活動指針、それらに基づく事業内容がどれだけ全国の大学に浸透していくかが、今後のUNIVASの発展可能性を左右する重要な要素になってくる。

そのためには、まずUNIVASの知名度向上こそがファーストステップとなるだろう。

UNIVASはもちろんのこと、大学スポーツの当事者である学生アスリートにも、大学スポーツというコンテンツを盛り上げる能動的な役回りが期待されていると言えよう。

(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)

引用・出典・参考

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