令和時代のNewPublicに必要とされる”考え方”

いま、テクノロジーの劇的進歩やイデオロギーの多様化に伴う「VUCA」の時代が到来している。しかし、急速な変化とはすべてのものがついていけるわけではない。

多くの人に関わりがあり、変化に対応出来ていないものとして真っ先にあがるのは「行政」だろう。新型コロナウイルスの対応でも多くの課題が露わになり、世間の批判を集めている。

そこで、今回は、Pro Publingualであり、公・官・学を横断する稀有なキャリア(経産官僚、政策起業家を経て、東大研究者)を持つ小田切未来さんから、令和時代の『NewPublic』に必要とされる”考え方”について、解説いただく。

1982年東京生まれ。政策起業家・研究者。東京大学大学院公共政策学教育部修了、米コロンビア大学大学院修了、修士(公共政策学・経済政策管理)。2007年経済産業省入省(旧:国家一種経済職試験合格))後、複数課室に勤務。2015年にNewsPicks社の政治・政策分野のプロピッカーに選出。2018年に一般社団法人Public Meets Innovation を共同創設、理事。2020年より東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員に着任するとともに、株式会社Publink社の政策プロフェッショナルとして、プロパブリンガルに選出。
※本内容は、所属組織の見解を示すものではなく、個人的見解です。
 
小田切 未来さんをフォローする

いま求められる『NewPublic』

2020年12月現在、新型コロナウイルス感染症により、再び感染者が拡大してきている。日本政府に今、最も求められているのは、新型コロナウイルス感染症の第三派以降を防ぎながら、経済活動を最大化すること。

しかしながら、現在のコロナ対応について、メディアや国民の中には「日本政府がアジャイル(機敏)に非常事態に対応できていない」という批判も多く見受けられる。

今回の新型コロナウイルス感染症対策の危機を受けて、第一に、より一層、今後の政府・公共機関には、リアルタイムでリアルデータを分析し、それをベースとして、アジャイルで、かつ、適切な政策が展開されることを期待されている。

また、第二に、政策関係者は、感情論に基づいたノイジ―マイノリティ(声高な少数派)の発言による政策づくりよりも、老若男女問わず(全世代のニーズを取り込んでいる)ファクトベースの”実ニーズ”に基づいた政策を立案・実行することが必要となる。

そして、第三に、AI、IoT等の技術革新が進む中で、国民一人一人のニーズが多様化している中、そのニーズに対応するためには、小さい政府で多様なニーズに対応ができるスマート化された行政が求められているのではないだろうか。

まさにこの変化の激しい社会において、人々は『NewPublic(新しい公共又は公共機関等)』を求めているのだと感じる。

テレビなどのメディアを見ていると、世にいうコメンテーターが政策に対して批判しているのは、先に述べた第一から第三に関係していることが多いが、それに対応する政府の動きの一つが、まさに『デジタル庁の創設』に繋がってくるといっても過言ではない。

デジタル庁によって、行政のスマート化が進めば『NewPublic』の実現は一歩前に近づくからである。

では、実際に『NewPublic』の実現を目指すうえで『センターピン(全体に最も影響があるもの)』にあたるものはなんなのだろうか。

政策立案に必要な「山を登り」「海を渡り」「空から見渡す」

まず私は、政策立案に必要な基本的な考え方は、「山を登り」「海を渡り」「空から見渡す」の三つだと思っている。

「山を登る」とは、歴史を遡って考えること、「海を渡る」とは海外の事例と日本の事例を比較して考えること、「空から見渡す」とは自分の価値を改めて上から、または、外から客観視するとともに、自分の担当している仕事(例えば、政策)がその組織全体または社会の中で、どういう位置づけにあり、何の意味があるのかを俯瞰して考えることである。

デジタル庁のようにデジタルを一括して担当する横串的な組織は、以前から待望されていたが、ここまで遅くなってしまった理由は、多くの日本人は、与えられた仕事を細かく分解して考えること(組織を縦割りとした上で、業務遂行すること)は比較的得意だが、空から見渡すことが苦手なことに起因していると私は考えている。

空から見渡すには、上述したように、自分の価値を改めて上から、または、外から客観視するとともに、自分の担当している仕事(例えば、政策)がその組織全体または社会の中で、どういう位置づけにあり、何の意味があるのかを俯瞰して考える必要があるが、日本の場合、就業時間も長く、かつ、終身雇用前提が多い中、なかなか客観視することが難しいのかもしれない。

では、そうした「空から見渡す」ことができる人材を育むためにはどうしたらいいのだろうか。

『NewPublic』のための「雇用・人材の流動化」

その答えの一つに『所属主体の枠を越えて行う活動』を挙げることができるだろう。

副業・兼業、海外留学、プロボノ、ベンチャー企業との人材交流等の活動のバリエーションも急速に多様化している。このような活動は、自分自身の思考をより敷衍させる助けになるし、違った角度から見ることができるため、空から見渡す力にも寄与することになる。

昨今の変化の激しい社会状況において、企業・大学等がイノベーションを生み出し、個人がリーダーとして成長を続けるためには、こうした活動の占める重要性は増していくと考えられる。

上記のような現象を、さらに「空から見渡して」考えてみると、日本の『NewPublic』のセンターピンの一つは「雇用・人材の流動化」だと私は確信している。

AI等の先端的なテクノロジーが進む中、近年では、ドッグイヤー(7年過ぎる変化が1年分であること)を超え、マウスイヤー(18年過ぎる変化が1年分であること)であると指摘されており、ノンプロフィットセクターからプロフィットセクターに人材を速やかに移していく必要性があることも、近年よく主張される。

そのために現在は政治家、公務員、民間企業・ベンチャー企業・士業、市民社会、学界・言論界等といったセクターごとの隔たりは大きいが、「個人の希望」に応じて、今よりもさらに行き来を柔軟にすることが必要である。

最近では、元ヤフー代表取締役社長の宮坂氏が、東京都副知事に就任したことが記憶として新しいが、今後、このような民間企業等からパブリックセクターへの行き来が増えることが重要だ。

氷見市や四条畷市などで副市長の公募制を増加している事例を考えれば、地方や国家の幹部級に、透明性を担保した上で公募制を導入するというアイデアも面白いかもしれない。

また、憲法第68条第1項で、「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。」とあり、本来であれば、閣僚の半分未満は、国会議員以外からも大臣にすることができるが、現在、大臣ポストに関しては、0となっている。

ただ、台湾のオードリー・タン氏を例にとれば、完全に新しい大臣ポストの新設の際に、公募制で募集をするか、公募ではないにせよ、民間企業等から引き抜くという事例が、令和時代以降、多くなってくるのではなかろうか。

さらに、この逆の事例となるパブリックセクターからベンチャー企業などに出向するケースも少しずつ増えてきている。ベンチャー企業に出向している知人に聞くところによると、官僚が事務や定型作業でベンチャーの仕事に貢献できるというよりも、例えば、規制を考慮すべきビジネスモデルを持つベンチャー企業であれば、規制側の視点や発想をベンチャー側に知ってもらうことにも意義があるという。

どうしても、ベンチャー社長は若く行動力があるが、パブリックセクターに対して、「どうして自社のこんなに良いサービス、プロダクトが認められないのだ、政府は本当に変わらない」という嘆くケースも私に聞こえてくる。

しかし、規制側からすると、既存のサービスで生きている人や社会のバランスや安全安心などの十分な確保など、山ほど課題があるわけで、そういう実態を同じ仕事場で、同じ目線でディスカッションをし、信頼関係を構築するということは、非常に“尊い”ことだと考えている。(もちろん、その企業にとっては、規制の壁は最終的に突破しなければならないだろうが。)

こうした「雇用・人材の流動化」が「空を見渡す」人材を育む土壌となって、官と民の双方に良い発想や取組の礎になるのだろう。

人材の循環がより重要になってくる

私は、2018年に一般社団法人Public Meets Innovation を共同創設し、政策起業家の一員として、公務員、弁護士、経営者等の出会いの場を創ったが、その創設の理由の一つは、この「雇用・人材の流動化」を進めたいという想いがあった。

そもそも公務員は、規則や立場を鑑みても原則的に自分の所属を中心にキャリアを形成することになるが、課外活動で他の職種の方と知的交流することで、外部に興味を持ち、それに

よって、「雇用・人材の流動化」に寄与できるのではないかと考えていたのである。

柔軟な変化の求められる(若しくは、柔軟に変化したい)組織では、「雇用・人材の流動化」というテーマを「人材流出(Brain Drain)」とネガティブに捉えるのではなく、「人材循環(Brain Circulation)」とポジティブに捉えた上で、上記のような仕組みを必要に応じて実施することが、より重要な時代になっていくだろう。

冒頭に述べた通り、変化の激しい社会において、デジタル庁の創設といった試金石も踏まえながら、行政もこうした”考え方”やスタイルのインストールが必要になっていくのではないだろうか。

(記事制作:小田切 未来(東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員)、編集・デザイン:深山 周作)

この記事に関するキーワード