2020年11月18日、河野太郎 行政改革担当大臣が「危機に直面する霞ヶ関」という記事を自らのブログに投稿しました。
2019年度の20代の霞ヶ関の総合職の自己都合退職者数は6年前より4倍以上に増えています。
2019 87人
2018 64
2017 38
2016 41
2015 34
2014 31
2013 21
※引用:危機に直面する霞ヶ関 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト
確かにこの数字を見る限りで”絶対値”は、非常に増えています。
一方、離職数のソース元が示されておらず、また”離職率”への言及はないため、全体に占める影響度合いも分かりません。
そこで今回は、Pro Publingalの畑田 康二郎さん(元経産省)に、公表されている政府統計データを基に国家公務員の離職を別の角度から解説をしていただきます。
人事院統計で見る退職者数の増加
20代の霞ヶ関の総合職の自己都合退職者数が6年で4倍以上になっている――。
河野 大臣は、上記のデータと共に「国家公務員の働き方改革を進め、霞ヶ関をホワイト化して、優秀な人材が今後とも霞ヶ関に来てくれるような努力をしっかりと続けていきます。」と述べています。
ただ、霞ヶ関のホワイト化は大いに賛同する一方、様々な統計情報を見ても『20代の霞ヶ関の総合職の自己都合退職者数』に関する公表情報はないことから、政府統計データに基づき検証していきたいと思います。
まず、人事院が毎年発刊している「公務員白書」にも収録されている「一般職の国家公務員の任用状況調査」という統計情報を基に、国家公務員の離職者数を見ていきましょう。
ちなみにこのデータでは総合職(キャリア組、旧Ⅰ種)と一般職(ノンキャリア組、旧Ⅱ種、旧Ⅲ種)の区分けではなく、行政職(一)というカテゴリにまとめられていることにご留意ください。
「一般職の国家公務員の任用状況調査」のデータによれば、年代別の離職者数の推移をグラフ化すると下記の通りになります。
2009年だけ異常な値になっていますね。
この異常な値の理由を分析するため、前後のことが書かれていそうな公務員白書(平成24年度版)を見てみましょう。
こちらを読み解くと「社会保険庁の廃止に伴う約12500人が含まれている」と書かれています。恐らく、2009年前後の離職者数を見るに2007年-2008年あたりも社保庁廃止前の駆け込み離職などが入っていることが推察されます。
これは一般的な離職傾向を見る際にノイズデータになってしまうため、2010年以降の推移で見てみましょう。
確かに全世代がじわっと増えており、その中でも特に20代以下の増加が目立っています。
ただし、この人事院統計における「離職」には、自己都合退職以外の数字も混じってしまっています。
具体的には、①特別職公務員・地方公務員・独法や国立大学など、国家公務員の身分を保持したまま一時的に行政職から離れるケースと、②任期満了や死亡による退職です。①について年齢ごとの内訳はなぜか平成29年(2017年)以降しか開示されていないので、分離してみることができません。
では、自己都合退職だけのデータを見ることは出来ないのでしょうか。
さらに他の政府統計データを見ていきましょう。
内閣人事局の「退職手当の支給状況」から退職傾向を分析する
実は、内閣人事局が「退職手当の支給状況」を毎年開示しているのですが、このデータを見ると、退職理由ごとの人数が掲載されています。
この5年分のデータで行政職(一)の自己都合退職者の推移を見てみましょう。
こちらのデータで見ても20代以下の退職者が増えていることが分かります。
ここでもう少し長い傾向を把握するために2013年より以前の古いデータセットが欲しいところですが、内閣人事局には5年分のデータしか掲載していません。
政府統計の総合窓口「e-Stat」を見ても、3年分しか載ってません。
ただ、ここで諦めてはいけません。
政府が過去に掲載していたであろうデータを見る裏ワザがあります。
霞ヶ関で『20代以下の自己都合退職』は本当に増えているのか?
政府が消してしまった公表情報が全部時系列でアーカイブされているサイトがあるんです。
とても素晴らしい。
このサイトを【国の機関>内閣官房>内閣官房//内閣官房】と進んでみると、毎月数回ぐらいのペースで魚拓を取ってくれていることが分かります。
これを地道に捜索していくと…2003年(平成15年)からのデータを発掘することができます。内閣人事局が発足したのが2014年なので、その辺りのアーカイブに埋まっています。
2003年からの時系列で推移をみると下記の通りになります。
2006年から2008年にかけての盛り上がりは、社保庁廃止に伴う離職などのファクターが大きそうですね。
ノイズデータの影響がなさそうな2010年以降のトレンドで傾向分析をした方が無難そうです。
やはり、20代以下の自己都合退職が、ぐいーんと伸びていることが分かります。
ここで蛇足ながら、もう一つ気になるのは50代の2011-2014年にかけてのコブ。恐らく2014年に内閣人事局が出来て、省庁による再就職のあっせんが禁止されることになったので、その前に駆け込みで自己都合退職が増えた、、、といったことが推察されます。
話を戻し、本当に20代以下の離職が増えているのか。
離職率でみたらどうでしょうか。
先ほどの人事院調査で年代別の在職者数のデータを取れるので、これを分母にとり、自己都合退職者数を分子にとった「自己都合退職者率」を計算してみましょう。
確かにトレンドとしては増えています。
けれど、1.1%(2010年)→1.8%(2018年)という低水準なレベル。
この離職率の値をどう捉えるべきでしょうか。
参考に「雇用動向調査結果(厚生労働省)」を紐解くと、2018年の一般労働者の離職率は11.3%。20代以下に関しては15.9%~39.2%という幅になっています。
離職率1.8%――。
私見ですが、むしろ若手の離職率1%台って非常に歩留まり良い、、、むしろ「辞めなさ過ぎ」なのではないかと感じます。
本当の問題はなにか。
今回、河野大臣の問題提起を軸に「霞ヶ関で『20代以下の自己都合退職』は本当に増えているのか?」を政府統計データから読み解いていきました。
確かに公表データからも「霞ヶ関の『20代以下の自己都合退職』絶対値は増えている」という裏付けを取ることができました。総合職(いわゆる「キャリア組」)だけでなく、一般職も含めた離職者が増えている現状を憂い、河野大臣の「霞ヶ関をホワイト化して、優秀な人材」を招き入れることにも賛同できます。
しかし、離職率で見ると明らかに低く、これ自体を問題視する内容とは思えません。むしろ流動性が低すぎることを問題視すべきではないでしょうか。霞ヶ関の優秀な人材が民間に転じて活躍するのは社会全体にとって良いことなので、「霞ヶ関をファーストキャリアに選択すれば、その後色々な分野で活躍できる!」というアピールが出来ると、より優秀な人材を呼び込むことが出来るようになると思います。
また、こうした検討を行う上で重要な基礎的なデータについて、国立国会図書館のアーカイブに頼らないといけないというのはヒドイ話なので、統計データの充実を強く願います。
(寄稿:畑田 康二郎、編集・デザイン:深山 周作)