【Politics for Olympic】スポーツ基本計画について読み解いてみよう(前編)

新型コロナウイルスの感染拡大により開催延期を余儀なくされた2020東京オリンピック・パラリンピック。現時点では来年7月から開催予定となっているものの、引き続き新型コロナウイルスを取り巻く状況を注視していく必要があるだろう。

ところで、2020東京オリ・パラが無事に開催されることは、政治・政策的な面でも非常に重要な意味を持つ。日本では、政策とスポーツが関わりを持つことはあまり良いイメージを持たれないが、現実問題として政策はスポーツに大きく関与しており、私たちの生活にも影響を与えているからだ。

そこでPublingualでは、「Politics for Olympic」と題した特集で、政策とスポーツの関係について政府資料等を読み解きながら解説していく

第1回となる今回は、日本のスポーツ政策の歴史を振り返るとともに、「スポーツ基本計画」における基礎的な部分を読み解いていくことで、政策とスポーツの関係の成り立ちについて解説していく。

政策とスポーツの関係の基本的な成り立ち

スポーツ振興基本法と1964東京五輪

旧国立競技場の聖火台。閉場前最後のスポーツの公式試合「ラグビーアジア五カ国対抗2014 日本代表VS 香港代表」にて撮影。

スポーツ基本計画は、日本のスポーツ政策の基本方針について示すとともに、その基本方針に沿った具体的な施策と目標について定めた計画だ平成23年(2011年)に施行された「スポーツ基本法」が根拠となって策定されており、スポーツ基本法こそが日本のスポーツ政策の根源だと言える訳だが、その前身である「スポーツ振興基本法」は昭和36年(1961年)に制定されている。これが日本における本格的なスポーツ政策のはじまりと言えよう。

スポーツ振興基本法が制定された当時、日本では戦後の生活水準の向上と産業の近代化により人々の余暇時間が増え、スポーツに対する関心が高まっている時期にあった。そこに昭和34年(1959年)には5年後のオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まったことが契機となり、スポーツ振興法の制定に至った。

スポーツ基本法について|文部科学省

スポーツ振興法の制定、そして昭和39年(1964年)の東京オリンピック開催をきっかけとして、日本は大きく変わっていくことになる。

オリンピック・パラリンピックの開催によりその国や都市に残されるポジティブな影響は「レガシー」と呼ばれるが、1964東京五輪は主に「有形」のレガシーを遺したオリンピックだとされている。日本武道館や国立代々木競技場、旧国立競技場などの体育施設はもちろんのこと、新幹線や首都高速道路などといった交通インフラも、1964東京五輪のレガシーの代表例だ。

五輪レガシー、何を残す 有形から無形へ―64年は「戦後復興」の象徴|時事通信

他にも、シンプルなデザインで道案内や注意表示などを行なう「ピクトグラム」も、1964東京五輪をきっかけとして日本のみならず世界中に広まったレガシーとして知られている。

スポーツイベントと政策の関係

「レガシー」はオリンピック・パラリンピックに限らず、様々なスポーツイベント等から生まれている。

例えば、平成14年(2002年)に日本と韓国の共催で開催されたサッカーワールドカップの際には、埼玉スタジアム2002や大分スポーツ公園総合競技場などの施設が新設されるとともに、既存の施設や建設計画が進行中であった施設についても、サッカーワールドカップの基準にマッチするよう規模を大きくする改修が行なわれた。また、カメルーン代表チームの合宿地として一躍有名になった大分県の中津江村は、現在もカメルーンとの国際交流を継続しており、自治体による国際交流の模範例となっている。これもサッカーワールドカップがもたらした重要なレガシーだと言えるだろう。

サッカーW杯が縁、旧中津江村とカメルーンの16年、深まる交流|産経新聞

さらに、国民スポーツ大会(以前は国民体育大会と呼称)は毎年、都道府県の持ち回りで開催されているが、開催地となった地方自治体は大会に向けて様々なスポーツ政策を実行する。施設の新設や改修などのハード面での施策はもちろんのこと、スポーツイベントや体験会の開催などのソフト面での施策も積極的に行われる。

つまり、オリンピック・パラリンピックなどのスポーツイベントの開催は、様々な政策を立案・実行するための重要な「大義名分」になる訳だ。これが、日本における政策とスポーツの関係の基本的な成り立ちであり、スポーツ政策の大きな特徴とも言える。

日本のスポーツ政策が抱え続けてきた課題

一方で、スポーツイベントの開催に関係なく継続的に行なわれるべき政策も多くある。学校体育や部活動などの子どもに関するスポーツ政策や、体力づくりや疫病予防などといった健康増進としてのスポーツ政策がそれだ。

ところが、後述する「スポーツ庁」が平成27年(2015年)に設立する以前は、これら日本のスポーツ政策は複数の省庁により計画・実行されていた。例えば、子どもに関するスポーツ政策は文部科学省、健康増進としてのスポーツ政策は厚生労働省、といった具合だ。要は、政策の内容や目的などにより管轄部署が異なる「縦割り構造」になっていたということだ。

実は、前出のスポーツ振興基本法には「スポーツ振興基本計画」を策定する旨が定められていたのだが、実際に策定されたのは平成12年(2000年)のこと。実に40年もの間、振興基本計画の策定が「先延ばし」にされていた訳である。

「スポーツ振興のあり方について(提言 2010)」|文部科学省

「スポーツイベントの開催は、様々な政策を立案・実行するための重要な「大義名分」になる」と先述したが、これは裏を返せば「スポーツイベントでもない限り、スポーツに関連した政策を積極的に立案・実行する理由は乏しい」ことを意味すると言ってもいいだろう。つまり、スポーツ政策のためだけに存在し、政策を立案・実行する仕組みがないことが、日本のスポーツ政策における長年の課題だったと言える。

第2期スポーツ基本計画の成り立ち

次に、現在進行している第2期スポーツ基本計画について、スポーツ庁が公開している「第2期スポーツ基本計画のポイント」を参考にしながら、その成り立ちについて解説していこう。

文部科学省スポーツ庁「第2期スポーツ基本計画のポイント」を引用

スポーツ庁の創設とその役割・効果

第2期基本計画を読み解いていく上でまず押さえておきたいのが、第1期基本計画の期間中に創設された「スポーツ庁」だ。

先述したとおり、スポーツ庁が設立する以前は、日本のスポーツ政策は複数の省庁により計画・実行される縦割り構造となっており、スポーツ政策のためだけに存在し、政策を立案・実行する仕組みがないことが課題となっていた。

そのような状況下、平成25年(2013年)9月に2020東京オリ・パラの開催が決定。この決定を受けて、スポーツ政策を一本化し総合的かつ一体的に運用できる体制を構築すべく、平成27年(2015年)に創設されたのがスポーツ庁だ。

スポーツ政策における悲願ともいえるスポーツ庁は現在、進行中の第2期基本計画の実行部隊としての役割を担っており、おおまかに分けて11分野の政策を立案・実行している。

スポーツ庁ウェブサイト「政策一覧」より作成

11分野の政策を見ると、これまで管轄が各省庁に分かれていたスポーツ政策が一体化されていることがよく分かるだろう。

また、スポーツ庁創設による効果は一本化だけではない。というのも、スポーツ庁が創設されたことで、スポーツ政策のために使える予算を要求しやすくなったのだ。実際に、平成27年度(2015年度)までは300億円に満たなかったスポーツ予算は、スポーツ庁が設立された翌年には324億円に増加。さらに令和2年度(2020年度)の予算案では350億円にまで増え、2020東京オリ・パラが開催予定の来年度は440億円を要求している。このように、スポーツ政策に使える予算が増えたことは、スポーツ政策の安定性および継続性の向上といった効果をもたらしている。

予算決算|スポーツ庁

ゴールデン・スポーツイヤーズ

第2期基本計画において次に注目すべきポイントは、計画期間となっている平成29年度(2017年度)から平成33年度(2021年度)の5年間のうちに、ラグビーワールドカップ、2020東京オリ・パラ、ワールドマスターズゲームズ関西の3つの国際的なスポーツイベントが開催されるという点だ。

先述のとおり、政策とスポーツの関係においては、「大義名分」となるスポーツイベントの開催が重要な役割を果たす。国際規模のスポーツイベントが3大会も開催される第2期基本計画期間は、スポーツ政策を実行していく上でこれ以上ない絶好の機会だと見ることができる訳だ(なお、来年5月に開催予定であったワールドマスターズゲームズ関西は、新型コロナウイルスの影響により、開催を1年程度延期が検討されている)。

ワールドマスターズ開催延期へ 生涯スポーツ、来年5月を1年|中日新聞

実際に、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と称されるこの機会を契機として、国や地方自治体等は様々な取組みを実行に移している。マラソン大会やサーフィン大会などの新たなスポーツ大会の開催や、ボランティア育成、パラスポーツの推進などスポーツと直接関係するものもあれば、外国との交流促進やキャッシュレス化、バリアフリーマップ作成など環境的な面での取組みなど、その内容は実に多様だ。

プラチナ社会研究会レガシー共創協議会「ゴールデン・スポーツイヤーズのレガシーに関する地方自治体アンケート調査結果」を引用

スポーツが変える。未来を創る。 Enjoy Sports, Enjoy Life

では、地方自治体がゴールデン・スポーツイヤーズを契機として様々な取組みを実行している一方で、国はどのような政策を実行するのか?その方向性を端的に表しているのが、「第2期スポーツ基本計画のポイント」の真ん中に記されているスローガンだ。

スポーツが変える。未来を創る。 Enjoy Sports, Enjoy Life」

このスローガンには、様々な取組みにより日本のスポーツを変えるのではなく、スポーツそのものにより日本社会を変えるのだ、という意気込みが込められているように読める。では、具体的にどのような政策を行なうのかについては、次回以降の記事で解説していくことにする。

まとめ

今回は、日本のスポーツ政策の歴史を振り返るとともに、「スポーツ基本計画」における基礎的な部分を読み解いていくことで、政策とスポーツの関係の成り立ちについて解説してきた。

1964東京五輪をきっかけとしたハードの整備から本格化した日本のスポーツ政策は、その後も各種スポーツイベントを「大義名分」とすることで様々な取組みが行われてきた。一方で、スポーツ政策のためだけに存在し、政策を立案・実行する仕組みがないことが、日本のスポーツ政策における長年の課題だった。

ところが2020東京オリ・パラ開催をきっかけとして、スポーツ政策に特化したスポーツ庁が発足。これにより、スポーツ政策の安定性および継続性が向上し、特に「ゴールデン・スポーツイヤーズ」を迎えている今、スポーツ政策がいっそう積極的に展開されようとしている。今はまさに、スポーツ政策にとって重要な局面であるということだ。

次回は、日本のスポーツ政策の要である「スポーツ基本計画」について、4つの具体的な施策と設定されている数値目標を紹介していきながら、具体的な政策の中身や私たちの生活との関連について解説していこう。

※後編はコチラ

(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)

引用・出典・参考

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