【3分解説】データで見る私たちの「生活の満足度と質」

国民が生活に満足しているかどうかは、GDPや貿易収支などの経済的な指標だけでは測りきれない。

働きやすい環境か、教育を受けやすい環境か、健康な生活を送れる環境か、身の周りの安全を守れる環境か、あるいは周りの人との交友環境はどうかなど…「生活の満足」を規定する要因には、さまざまなものがあるからだ。

このような考え方から近年の国際社会では、生活満足度を計測するための仕組み作りが活発化している。

我が国でも、「質的・主観的観点から、より多角的に”見える化”し、政策運営に活かしていく」べく、昨年度から「満足度・生活の質に関する調査」という調査が行なわれ、これまでに様々な報告が行なわれてきた。

今回ご紹介する『「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書(以下、「報告書」と表記)』は、その4回目の報告資料である。

ここで報告書について丁寧に説明すると、報告書の主な目的は「「満足度・生活の質に関する指標群(ダッシュボード)」の構築において残された大きな課題」を解決するためのデータを集めて分析することだ。

しかし、これはかなり統計学的な話であり、このことを解説し文章化しても、読み物としての面白味に欠けるだろう。

そこで今回は、あえて報告書の主目的や統計学的な話は省略し、報告書内で述べられている興味深い調査結果を紹介していこう。

「家計と資産」と満足度の関係

お金持ちになれれば幸せになれる。多くの人がそう信じていることだろう。少なくとも、お金がたくさんあるに越したことはないはずだ。ところが、実際にはそうとも言い切れないらしい事が、「世帯年収別の家計と資産の満足度」に示されている。

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。

グラフを見ると、世帯年収が「3,000万円以上5,000万円未満」で、家計と資産に対する満足度が最高となり、それ以上だと満足度が小さくなっている。しかも「1億円以上」の満足度は「700万円以上1,000万円未満」とほぼ同じ値になっているのだ。

これは推測だが、お金持ちになればなるほど、求めるレベルが上がっていくことが大きな要因ではないかと考えられる。同じことが他の先進国でも観察されている旨が記載されているので、お金に余裕のある国ならではの贅沢な悩み、と言えなくもないだろう。

さらに日本の場合、所得税が累進課税制度をとっているので、収入が大きくなるほど税負担の割合が大きくなる。仮に年収が1億円だとしたら、およそ半分の5,000万円近くが所得税等で持っていかれてしまうのだ。このことに対する不公平感や不満も、満足度の小ささにつながっていると考えられるだろう。

「住宅」と満足度の関係

「持家」と「借家」、本当のところはどちらが良いのか?というのは、最近よく目にする議論のテーマだ。かつては「庭付き一戸建て」がステータスという時代もあったが、最近は「持家」の持つ様々なデメリットに注目が集まりだしているからだ。

とはいえ、データを見ると、やはり住宅に対する満足度を比べれば、「借家」よりも「持家」の方に分があるようだ。

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。

部屋の狭さや設備など様々な制約がある「借家」よりも、大抵のことは自分たちの自由にできる「持家」の方が、メリットが大きいということだろう。また「自分で持家を手に入れた」という事実そのものが満足度を押し上げている、ということも考えられる。

だが興味深いのは、年齢別の住宅に対する満足度のデータだ。

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。

これを見ると、年代が若くなるにつれ、「持家」と「借家」の満足度の差が小さくなっていることが分かる。つまり、若い年代ほど「持家」と「借家」の満足度にはあまり差がないと思っている、という仮説が立てられるのだ。

事実、最近は定期的に住む場所を変える「アドレスホッパー」という生き方が若い世代で流行し始めているというニュースもある。ノートパソコン1台あればどこでも仕事ができる現代社会ならではのライフスタイルといえるだろう。今後、テレワークがより普及し、働き方の自由度が増していけば、住む場所に対する価値観も大きく変わっていくかもしれない。

【持たない幸福 レス時代の暮らし】(上)身軽に移動 広がる活動 アドレスホッパーとは|産経新聞

「社会とのつながり」と満足度の関係

もうひとつ、興味深いデータがある。

「スマホ」と「社会とのつながり」の満足度に関するデータだ。

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。]

これを見ると、「10歳代」と「20歳代」の若い世代は、スマートフォンを使用している場合の満足度が高いことが分かる。生まれたときからITが身近なデジタルネイティブ世代にとって、スマートフォンは必要なときに使うツールというよりも、生活のベースとなっている必要不可欠な要素なのだろう。

「40歳代」より上の世代では、スマートフォンの有る無しで満足度にあまり違いがないのと対照的だ。情報化社会における「社会とのつながり」の在り方の変遷を如実に表していると言えよう。

どの世代でもスマートフォンを使用している人の方が、社会とのつながりに対する満足度が高いことが見て取れる。最近は「SNS疲れ」という言葉もあるとおり、オンラインでのつながりに対するネガティブな意見も散見されつつあるが、それでも2つの棒グラフからは、スマートフォンの存在が社会とのつながりに大きく関係していることが見て取れる。

「with コロナの暮らし」と満足度

「with コロナの暮らし」と満足度との関係に関する調査結果では、特に2つのデータについてピックアップして読み解いていきたい。

産業分類別の仕事満足度の低下幅

1つ目が、99ページに掲載されている「産業分類別の仕事満足度の低下幅」の棒グラフだ。

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。

これを見ると、「保育関係」「教育関係」「サービス業」「医療、福祉」「小売業」について、仕事に対する満足度の低下幅が大きいことが分かる。

新型コロナウイルスが産業に与えた「経済的な」影響の面でいえば、よく取り上げられるのは飲食業や観光業といった、目に見えて利用者数が減少している産業だ。事実、帝国データバンクが公開した情報でも、新型コロナウイルス関連倒産の件数が最も多いのは「飲食店」で77件、次いで「ホテル・旅館」が55件となっている。

新型コロナウイルス関連倒産|帝国データバンク

だが、仕事に対する満足度という切り口から見てみると、利用者数が減っている「サービス業」や「小売業」以上に、「保育関係」や「教育関係」で働いている人々へのダメージが大きいことが、はじめて分かる。

本稿の冒頭で述べた「国民が生活に満足しているかどうかは、GDPや貿易収支などの経済的な指標だけでは測りきれない。」という考えを如実に表している結果だと言えよう。

「保育関係」や「教育関係」の場合、新型コロナウイルスによって利用者数が減るという影響はあまり大きくはない。しかし、そこで働いている人々は、子どもの安全を確保するために並々ならぬ労力を割いている。また、子どもが集まる環境は、働いている人自身の感染リスクを上げざるを得ない。こうしたことがストレスになり仕事に対する満足度に影響していると考えられる。

「家族と過ごす時間の変化」と満足度

2つ目が、「家族と過ごす時間の変化」と満足度だ。

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。

「男性」は家族と過ごす時間が増加した方が満足度の低下幅が小さいのに対して、逆に「女性」は家族と過ごす時間が増加した方が満足度の低下幅が大きくなってしまっているのだ。

なぜ、性別によって真逆の結果が出てしまっているのか?

※内閣府「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」を基に作成。

「夫婦間の役割分担の変化」と満足度の関係のデータを見てみると、男性の場合、「夫の役割が増加」した場合に満足度の低下幅が小さくなっているのに対して、女性の場合はどの場合でも一様に満足度が比較的大きく低下してしまっていることが分かる。

つまり、テレワークにより在宅機会が増えた男性は家事や育児に参加することで満足感を覚えている一方で、女性にとっては男性が家事や育児に参加しようがしまいが、満足度は変わらないかむしろマイナスということだ。

世の男性にしてみれば「せっかく頑張って家事や育児もやっているのに」と思うだろうが、女性にしてみればそれは男性の自己満足に過ぎない、ということなのだろう。いずれにしろ男性は、自分の家事や育児が女性の満足度にはあまり影響していない事実を、肝に銘じておくべきかもしれない。決して「これだけ頑張ってるのに!」とは思わない、口に出さないことだ。

生活の満足度はデータにどうあらわれていくのか。

今回は、内閣府が作成した資料「「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書」について、162ページに及ぶ資料から興味深いデータ等をピックアップして解説してきた。

本資料では、今回取り上げたデータ以外にも、満足度や生活の質に関する興味深いデータがまとめられている。

また、本報告書も含め様々な調査の結果に基づき考案されている「満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)」も合わせてチェックしてもらいたい。

このデータは、国民の満足度や生活の質と関連があると思われる11分野の指標の変化モニタリングしているもので、政府が具体的に国民の生活のどの部分を重視しようとしていることが読み取れる。

(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)

引用・出典

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