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自民党デジタル社会推進特別委員会は、2001年にeJapan特命委員会として発足して以来、党内のペーパレス会議の実施など、先端技術を活用した委員会運営に取り組んできた。
また、2010年からは、DN(デジタル・ニッポン)を取りまとめ、政府に提言を重ねてきている。
そして、平井デジタル相が強く推しているのが「デジタル田園都市国家」という構想だ。今後のデジタル政策を占う「デジタル田園都市国家」について170Pを越える資料を今回は見ていこう。
「デジタル田園都市国家」とは
「デジタル田園都市国家」は、自民党デジタル社会推進特別委員会がwithコロナの社会の在り方を整理し、様々な課題を解決するために行った提言である。
本提言では「COVID-19でおきたこと」、「危機から学ぶべきこと」、「2030年を見据えた概念」というフェーズごとに現状と課題の整理が行われ、政策提言がまとめられている。
「田園都市国家」というどこか牧歌的なキーワードは、第68・69代 内閣総理大臣である大平正芳氏の考えが元になっている。
“都市の持つ高い生産性、良質な情報と、田園の持つ豊かな自然、潤いのある人間関係を結合させ、健康でゆとりのある田園都市づくりの構想を進める(第68・69代 内閣総理大臣である大平正芳氏)”
この考え方が現代風に解釈され、先端技術を通してどこにいても国民の生活の質が高く維持される社会を理想として掲げている。
COVID-19でおきたこと、危機から学ぶべきこと
まず、「COVID-19でおきたこと」としてコロナの流行により生じた現象を整理している。コロナの流行により経済や生活、医療など様々な分野に影響を及ぼしたことを認識し、各分野の現状をまとめた。
この現状認識を基に、withコロナを前提とした課題解決とパンデミック再来への対策に繋がっていく。
例えば、政治・行政面においてはパンデミック再来を前提とした政策や行政手続きの簡素化、働き方の面においては押印文化からの脱却、医療分野においては初診オンライン診療の普及、教育分野においてはオンライン教育などがそれぞれ必要な取組だとされている。
2030年を見据えた大きな概念ー「デジタル田園都市国家構想」
次に、過去20年間のパンデミックの発生を振り返る。
2002年のSARS、2012年のMERS、そして今回のコロナウイルスと21世紀に入ってから世界は3度ものパンデミックをすでに経験している。
これを踏まえると、2030年までにもう一度パンデミックが生じる可能性を考慮した政策が必要になってくる。
また、2030年の日本は現在より人口がおよそ970万人減少し、高齢者の人口が1/3に、デジタルネイティブ世代は50代前後になっている。
このように、パンデミックの再来と高齢化や人口減少という課題を解決する概念が「デジタル田園都市国家」である。
「デジタル田園都市国家」では、社会全体のデジタライゼーションを前提としている。デジタライゼーションが進み地方でも大都市並みに仕事ができ、収入や楽しみが得られる状態を志向する。
感染拡大防止と地方活性化の両方を目指すというわけだ。
デジタル田園都市国家のポジティブなスパイラル
「デジタル田園都市国家」はデジタライゼーションで人間中心のデジタル社会を実現し、経済・生活・幸福のポジティブなサイクルを回すことを想定する。
この中では、GDP20%の緊急経済対策などにより抑え込まれた需要の喚起が行われる。一方で、大都市圏は必ずしも生活に満足している人々ばかりではないことに注目し、スーパーシティの進化が行われる。
スーパーシティとは、ライフラインの整備と必要な規制改革により実現されるもので、生活者を支える移動手段、物流手段、決済システム、行政手続きなどのインフラが未来仕様になった都市の姿をいう。
このスーパーシティはデジタル田園都市国家の構想の中では都市の生活面を支え利便性を向上させるひとつの要素として位置づけられている。
また、2019年に行われたブランド総研の調査によると、大都市圏だからといって必ずしも幸福度が高いわけではないということが明らかになった。
地方で豊かに暮らしていけるのであれば、それに越したことはないだろう。デジタル化が進み、インフラの整備や楽しみ方が進化した地方においては、幸福度の高い生活を送ることができる。
「デジタル田園都市国家」では、地方生活者の幸福までを射程としてとらえ、ポジティブなサイクルを回すことが理想だ。
「デジタル田園都市国家」の各論
こうした総論に対して、各論ではDXやワーキングスタイル、教育・医療分野などデジタル化を進めるべき分野について個別に提言がなされている。
紹介されている内容が多岐に渡るため、ここでは部分的に紹介しよう。
例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を普及させ人々の生活を向上させることを指すが、このDX推進に向けては時代遅れになった「IT基本法」に代わり新たな法整備が必要としている。
また、ワーキングスタイルについては、労働力を地方に分散させるため、リモートワークを推進するための取組支援の強化を提言している。
本提言に掲げられている押印の見直しについては、すでに河野行革担当相により進められており、行政手続における印鑑廃止を全省庁に要請したところだ。
河野行革相 行政手続きで印鑑廃止を全省庁に要請 押印必要なら「月内回答を」(毎日新聞)
また、行政、大企業、ベンチャーそれぞれの得意な領域を組み合わせたデータ連携、共通APIの整備にも言及をしている。
こうした仕組みが社会的な課題の解決とユーザーに本質的な利便性をもたらす国内イノベーションを加速させるきっかけになることが期待される。
「デジタル田園都市国家」とこれからのデジタル社会
自民党は7月からYouTubeチャンネルで「デジタル田園都市国家」の概要や各論について情報発信を続けている。
7月1日に投稿された「【DN2020】#0 デジタル・ニッポン2020の概要」では、提言の背景や総論について話され、その後の動画では各論について詳しく説明がなされている。
各動画ではゲストにデジタル社会推進特別委員会委員長の平井デジタル改革担当大臣などを迎え、「デジタル田園都市国家」の提言をどう推進かしていくかについて説明がなされている。
また、菅内閣発足後は、デジタル化に関する閣僚会議が開かれ、菅首相は「デジタル庁」創設に向けた基本方針を年内にまとめるよう指示を出した。すでに準備室が機動的に動いている。
このようなデジタル化への急速な舵取りも「デジタル田園都市国家」の政策提言と符合するところであり、提言の内容を知っているだけで今後のデジタル政策の方向性をある程度予想することができる。
今後はこうした考えの元、教育や医療、防災などの分野においてもデジタル化に向けた政策が行われるだろう。
しかし、これらの個別の政策がデジタル田園都市国家の実現に向けた取組のひとつであることも理解し、個々の政策が2030年に設定されたゴールにどのように寄与するのか評価していく必要がある。
(記事制作:江連 良介、編集・デザイン:深山 周作)
引用・出典
- デジタル・ニッポン2020~コロナ時代のデジタル田園都市国家構想~(自由民主党デジタル社会推進特別委員会)
- 第 14 回「地域ブランド調査 2019」(ブランド総研)
- デジタル庁創設へ基本方針 年内に、首相指示(日本経済新聞)