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新型コロナは、今までの都市の在り方を見直す契機には十分過ぎる出来事だった。
2月から各国ではじまった「ロックダウン(都市封鎖)」によって、世界各国の都市から人の姿が消えた。
強制的なロックダウンが出来ない日本でも、4月に史上初めて「緊急事態宣言」が発出させられる事態となった。
発令当初は、東京・渋谷駅は利用者数が9割も減り、普段はまっすぐ歩くのが困難なほどに人が密集するスクランブル交差点でさえ、1人、2人、3人…と数えられるレベルにまで人がいなくなった。
そして、緊急事態宣言が解除された後もなお、人々の動きは完全に元には戻っていない。
新型コロナの感染拡大防止のため、あるいは露呈したさまざまなリスクに対処するため、社会が”新しい生活様式(ニューノーマル)”を模索し実践するようになったからだ。
いままで都市は「人を集める機能」を求められてきた。
しかし、人が集まれなくなった状況で都市は何を求められるのか。
国交省が総勢61人もの有識者との議論で打ち出した文書、「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」から紐解いていこう。
新型コロナウイルスが社会にもたらす「ニューノーマル」
まずは、データで何が起きたかを見ていく。
第一に「働き方」だ。
「テレワーク」は、緊急事態宣言をピークに6月に減少傾向を見せたものの以前と比べれば約10%以上増えており、Zoomなどの「オンライン会議」をビジネスシーンの常識に変えた。
なにより、ベンチャーのみならず、パソナのような大企業が「オフィス不要論」や「地域移転」を発表したり、テレワークの弊害として「印鑑・紙文化」や協働してリモートワークを推進する動きも出ている。
一方でテレワークでのコミュニケーションに不便さを感じる人がいるのも事実だ。
オンラインの視覚・聴覚という2感のみでは、5感を代替し得ないということなのだろうか。家の環境、例えば遊びたい盛りの子どもがいるからということもあるかもしれない。
ここは議論が分かれるところでもある。
ただ、ここで大事なのは『テレワークvs出社』という構図、、、ではなく、どう適切に『テレワーク×出社』を組み合わせていくかだろう。
これに対して、国交省の示す方向性の結論を表しているのが下記の文章だ。
都市という場の重要性や都市における機能の集積の必要性は変わらず、新型コロナ危機を踏まえても、引き続き、都市の国際競争力強化、ウォーカブルなまちづくりによる魅力向上、コンパクト・プラス・ネットワークの推進、スマートシティの推進に取り組んでいくという大きな方向性に変わりはないと考えられる。
その上で、都市の持つ集積のメリットを更に伸ばす取組を進めつつ、新型コロナ危機を契機として生じた変化に対応していくことが必要である。
そして、その帰結として「規模の異なる複数の拠点が役割分担をしながら、職住近接や過密コントロールなどの様々なニーズ、変化に柔軟に対応できるまちづくりが進んでいく」としている。
この実現には5つの論点が存在し、それぞれが仮説シナリオでもある。
では、それぞれ見ていこう。
【論点1】都市(オフィス等の機能や生活圏)の今後のあり方
テレワークによって、これまではオフィスが中心だった「働く場所」としての役割が、今後は住む場所により近いところに求められる。
結果、「職住近接」に対応するまちづくりの必要性が予想される。
いや、”予想”ではなく、実はすでにはじまってもいる。
日鉄興和不動産株式会社は「入居者専用シェアオフィスルームがある分譲マンション」を開発することを発表した。Wi-Fiや複合型ネットワークプリンタはもちろんのこと、照明の明度設定さえもオフィスと同等に設定したり、あるいは防音ブースも用意する。
三井不動産グループも、現在開発を進めているマンション「パークタワー勝どきミッド/サウス」で、共用のコワーキングスペースに加えて専有部にも仕事がしやすい空間を確保するなど、ニューノーマルに対応する新たな商品プランを公表している。
「働く場所」の機能を追及した共用スペースが整備される予定だ。
その周りには、憩いの場としてのオープンスペース、図書館、カフェなどの需要も生まれるだろう。
こうした物件や地域の老朽ストックを活用し、企業のサテライトオフィスやコワーキングスペースとなることで「地元生活圏」の形成に繋がれば、東京一極集中の是正のチャンスが到来する可能性がある。
日本全国という視点で俯瞰すると、元々政府が推し進めていた「コンパクト・プラス・ネットワーク」を現状にアジャストしていく格好になる。
これらの動きは「クリエイティブ人材を惹きつける良質なオフィス・住環境」にもつながることを期待できる取り組みだ。
一方で、このシナリオでいけば既存のオフィス需要は減り続けるだろう。
現在は短期的には現空面積(物件の空き面積)は6月をピークに増えているが、中長期的な傾向を見れば大きな影響はないという声もある。
この”新しい需要の増加”と”今までの需要の減少”は、「限定的であり、東京一極集中是正の効果はない」という見方もあるようだが、本当のところは誰もわかっていない。
これが今後の推移を見ていく論点のひとつ目となる。
【論点2】都市交通(ネットワーク)の今後のあり方
ご存知の通り、新型コロナによってバスや電車等の公共施設の利用者数は大きく減少している。
では、今後の都市交通に求められることとは何か
その答えのひとつが、公共交通「以外」の手段である。
重要視されているのが自転車、シェアリングモビリティなど、多様な移動手段の確保や環境整備だ。
自転車交通環境の整備としては、「自転車専用レーン」の拡充がひとつ重要なポイントとなる。すでに国土交通省は6月に、東京23区内の国道および主要都道において、自転車通行帯などを今年度に約17km整備することを発表した。
自動運転やMaaSの社会実装によって交通の流入を柔軟に調整可能なモデルが求められ、移動自体のニーズも「定時型大量輸送」から個人ニーズに合わせた「多頻度少量輸送」に変化する。
【論点3】オープンスペースの今後のあり方
いままで論じてきたシナリオにある「職住近接」が進めば、地域にいる時間は増え、その快適さを求める傾向が強くなる。
そこで街路空間、公園・緑地、水辺空間、都市農地、民間空地といった、まちに存在する「グリーンインフラ」と「オープンスペース」をどう設計するかが重要と言われている。
一例として、外出自粛や3密回避を謳われはじめた3月頃の公園利用率を見ると、前年比から増大している。
こうした「グリーンインフラ」と「オープンスペース」は、個人の快適さや幸福度だけでなく、防災や地域コミュニティの核としてエリアマネジメントし、魅力を高めていく実証がこれから行われていくことが予想される。
【論点4】データ・新技術等を活用したまちづくりの今後のあり方
いままでの論点を踏まえて、「バーチャル空間」と「都市のリアルタイムデータ」にIoT、AI、5Gなどの先端技術や都市データの活用を目的とした多様なプレイヤーの連携が見られるようになってくる。
分かりやすいのは、Fortniteと米津玄師のコラボレーション、どうぶつの森に見られる交流といったバーチャル空間のコミュニティ化の加速。買い物、イベント、展示会のデジタルシフト。
これはすでに体感している方も多いのではないだろうか。
通信量を見れば、私たちの生活に占めるバーチャル空間の比率の伸びが伺える。
感染症と並行した経済行動のために人流データやパーソナルデータを用いたミクロ空間単位での密度コントロールの必要性が出てくる。これらのデータは非常時にも重要な役割を果たすだろう。
現段階では取組をしている各スポットごとの密度をビジュアライズしただけだが、データやデジタル技術の活用に際して、官民を問わないクロスセクターでの連携が検討されていくことになる。
【論点5】複合災害への対応等を踏まえた事前防災まちづくり
災害対策では「複合災害」を考えなくてはいけない。
目下問題になっているのは、感染症対策をしながら、避難所の過密コントロールをどうするかということだ。
災害時に重要な役割を果たす避難所。想像するべくもなく、既存の体育館などの広いスペースにびっしりとシートを敷くようなスタイルは「身を寄せ合う」ことがリスクを高める現在は厳しい。
一方で、自治体が運営する避難所は、基本的には体育館等の公共施設を「転用」する形で開設されるため、数やキャパシティには限りがある。
そもそも、災害時に過密空間を危惧して人々が「避難所を避ける」ということが起きることも予想できる。
避難所の例で言えば、今年の4月には政府から日本ホテル協会などに対して、災害発生時の宿泊施設活用に関する協力が呼びかけられ、公共施設以外にも一部自治体ではすでに「補助避難所」として利用できるようホテルと協定を結ぶ事例も出てきた。
これらの論点はまだ仮説段階のものも多い。
しかし、新型コロナは不可逆的な変化を私たちにもたらしたのは疑うべくもない。
これは「変革の必然性」であり、イノベーションの種でもある。
いままで進んできたコンパクトシティや先端技術を活用したスマートシティなどの政策も現状に則しつつ、加速することが期待される。
国交省の都市政策の方向性について紐解いてきたが、自分が住んでいる街が今後どのように変わっていくのか、資料を見ながら想像してみることで、自分の生き方に関する「ニュー・ノーマル」のヒントになれば幸いだ。
(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)