【イベントレポ】医療従事者は病院の外に飛び出すべし!?| 勝手に有識者カイギ

官×民の視点で行うディスカッションイベント「勝手に有識者カイギ」。第11回目のテーマは「医療/ヘルスケアのオープンイノベーション」。

医療/ヘルスケア領域は、これまで以上に連携、オープンイノベーションが必須になってきています。

今回は、そんな医療/ヘルスケア領域に取り組むキーパーソンとして「病院マーケティングサミットJAPAN」の代表理事である竹田陽介氏と、経済産業省のヘルスケア産業課総括補佐 である藤岡雅美氏をお招きし、医療/ヘルスケアのオープンイノベーションの現状や課題、将来へのビジョンについて、サロンメンバーと一緒に考え、議論を行ないました。

※文中、意見にわたる部分は個人の見解です。
※本イベントは、オンラインサロン限定かつチャタムハウスルールにて開催しているため、本記事内では承諾の頂けた発言に限り掲載しております(希望によって記事では匿名化も行っています)。全内容が気になる方はぜひ下記バナーをクリックして、「パブリンガルサロン」のご入会をご検討下さい。

イントロダクション

栫井(ファシリテーター):今回のお題は「医療とヘルスケア」ということで、この分野はこれまで病院の中だけ、(霞ケ関であれば)厚労省の中だけで語られてきたテーマだったと思います。

ただ、これからは医療関係者や特定の省庁だけではなく、経済界とも連携してオープンイノベーションを図っていく必要があると言われている分野です。

ゲストの竹田さんは医療機関から、色んな人を束ねて新しい挑戦にどんどん取り組まれており、藤岡さんは経産省と厚労省を行ったり来たりしながら多面的に動かれているプレーヤーです。

まずはお二方から、オープンイノベーションに向けて取り組まれていること、取り組みの中で認識した壁といったお話をお聞かせいただければと思います。

あらゆるところが、「医療体験を受ける場所=病院」になる。

病院マーケティングサミットJAPAN 竹田陽介氏(以下、竹田):まず、簡単に自己紹介をしますと、私は心臓専門の内科医であり、今も週に2回診療を行なっています。医師としての顔として以外には、病院の広報、マーケティングのコンサル、それと医学系の学会のイベントの企画やプロデュースも行なっております。

ただ、これらはあくまで私が経営している会社の事業という意味での仕事でして、私のワークライフについて話をしますと「病院マーケティングサミットJAPAN」という組織を立ち上げて活動しています。これは「ワクワクを共有して育てていこう」を合言葉に、分野、組織、世代を超えて、さまざまなオープンイノベーションを起こしていこうという活動です。

この活動を始めたのは4年前のことで、これまで「地域×医療」、「くらし×病院」、などといったテーマを打ち出して、病院内外を越境するインタープレナー活動をしていました。こういった中で最近はもっぱら「病院進化論」をテーマとして活動をしているので、今日はこれについてご紹介いたします。

※当日配信のキャプチャ

竹田: 「病院進化論」は「病院というものの定義を見直してみよう」という考えから始まったテーマです。

これまで「病院」といえば「~~病院」とか「~~クリニック」などのひとつの「箱」あるいは「建物」といったイメージがありましたが、これを私たちは「医療体験を受ける場所=病院」といった形で捉え直しました。

ですから、体育館やオフィスビルのフロアで新型コロナのワクチンを接種すれば、そういった場所はある種の「病院」。あるいは、今後例えば公衆トイレで便潜血の検査ができるようになれば、それもある種の「病院」です。これからの世の中ではこのようにして、色々な生活の場所や舞台が「病院」と捉えられるようになるんじゃないか、というのが「病院進化論」のスタンスです。

このスタンスに立って考えてみると、今は私たちのように病院の中で白衣を着ている人間だけが医療当事者であったのが、これからは病院の中だけでなく外でも、白衣を着ていなくても、みんなが同じ目線の高さで医療というものを当事者として考えていく必要が出てきます。

そして、このように分野や業界の垣根を超えて、色々なところで共創活動を生むためには「ワクワクを育もう」という視点こそが駆動力になる。こういった考えのもと、病院マーケティングサミットJAPANでは様々な活動に取り組んでいるところです。

では「ワクワクを育む」ためには具体的にどういったことが必要か?

例えば「病院マーケティングサミットJAPAN」という名前。私たちの組織はある種の学会ともいえるんですけど、かといって「日本~~学会」と銘打ってしまうと、ワクワクしませんよね。なので、あえてこういった名前にしております。

また、法人として行う事業についても「~~事業」だとやはり固い。なので「部活動」という呼び方に変えて、例えば広報やマーケティング、コンサルティングといったものは「ファンづくり部」、学会イベント等の企画運営は「プロデュース部」といった感じに、老若男女だれもが入ってきやすい名称にして、活動しています。

この効果はてきめんで、最初は偉い先生や役所の方たちからは「何それ?」「チャラいんじゃないの」といったリアクションだったのが、最近は市民権を得てきて、問題なく通じるようになっています。また事業である「部活動」についても、リタイアされた高齢者の方から中学生の方まで、非常に幅広く参加いただいています。

「病院マーケティングサミットJAPAN」の活動の具体的な中身

竹田:病院マーケティングサミットJAPANの具体的な活動内容としては、例えば「教えて!ワカモノ先生」というのがあります。これは中学生や高校生といった若者に先生になっていただき、大人たちが生徒としてワカモノ先生の話を聞く、という催しです。

大人は生徒なので、ワカモノ先生の話を口にチャックして聞き、何か質問などあれば「発言させてください」といって挙手をする。私なんかはワカモノ先生から「竹田くん」と呼ばれていますが、このような逆転現象というのが安心感に、ひいては先ほどお話した「垣根を超える」「ワクワクを育む」といったことにつながり、思わぬアイデアが生まれたりもするわけです。

※当日配信のキャプチャ

竹田: もうひとつ、最近特に盛り上がっているのが「病院ファンづくり部」という活動です。これは、従来は事務職員が「広報」として行なっていたものを、職員全員による「院内外のコミュニケーション活性化」へと発展させようという試みです。

これまで医療業界においてイノベーションは、医療機器のベンチャーとの連携といった文脈から語られることが多かった。ところが、病院マーケティングサミットJAPANの活動をしていく中で、医師や看護師などといった直接患者さんを見ている現場の医療職の人たち自身の動きとして、もっと出来ることがあるんじゃないか?という発想が生まれました。

医療ベンチャーと連携して特許を取ったりデバイスを開発するだけでなく、病院の外に一歩踏み出して何ができるかを考える。こういったスタンスから生まれたのが「病院ファンづくり部」という活動です。

「病院ファンづくり部」の活動は色々あるんですけど、最近セッションを行なって非常に盛り上がったのが「地域が主役の病院ファン作り企画」という催しです。

最近の病院はパンチが非常に効いておりまして。地域でトランポリン教室をやったり、塾をやったり、高級旅館をプロデュースしたり、ゴルフ場を運営したりなど、さまざまな「病院の外に一歩踏み出た」取り組みを行なうことで、病院のファンを増やそうとしています。

こういった取り組みを行うことで、病気やケガをしたら診察に行くという人以外にも「病院に行きたい!」と思う人を増やそう、というわけです。これがひいては、先ほどお話した「病院の中だけでなく外でも、白衣を着ていなくとも、みんなが同じ目線の高さで医療当事者として考えていく」といったことにもつながる。といったことを考えて、我々は取り組んでいるところです。

※当日の会場の様子(配信)

医者も、看護師も、病院も、「街づくりに参加したい!」

栫井:竹田さんありがとうございました。

ひとつ質問ですが、医療のオープンイノベーションは、竹田さんがおっしゃられたとおり医療機器メーカーや製薬メーカーといった企業との連携という文脈で語られる世界であったと私も認識しており、もっと多様な業種の業者が絡んでくると嬉しいなと思っているのですが、そのあたりは竹田さんの肌感覚として、進んでいる部分とそうでない部分はありますか?

竹田:医療が行政からのトップダウンで下りていく部分、たとえば保険診療といった分野では、やはり時間がかかっているのが現状ですね。こういった分野では、そもそも「現状把握」という部分から時間をかけて行なわれるものなので、既存の医療機器メーカーや製薬メーカー以外は手が出しづらいわけです。

ただし、そういった部分以外のところ。例えば「医療体験」の話をすると、病院のエクステリアをどうするかとか、近隣の商業施設とどう連携しようかとか。こういった行政からのトップダウンは関与しない部分というのは、非常にオープンイノベーションの可能性を感じるところです。最近は飲食とのコラボが面白いという話もちらほら聞きますし、実際に地域のイベントに病院と飲食店がコラボブースを出すといった試みも行なわれたりしています。

実際、現場の医療職の人たちと話をしていると、現場の人たちにしてみれば行政からのトップダウンで下りてくる部分というのは、言われたとおりに取り組むしかないわけで。それ以外の部分で「医療体験」としてどのようなことが出来るかを考えるのに対して、非常に意欲的なんですよね。

要は、医者だって看護師だって、病院だって「街づくりに参加したい!」という気持ちを強く持っているわけです。

健康はアビリティ(能力)である

栫井:なるほど、ありがとうございます。では続いてはその「行政」の側から、お話を聞きましょう。藤岡さん、お願いします。

経済産業省 ヘルスケア産業課総括補佐 藤岡雅美氏(以下、藤岡):いま竹田さんが仰られた話、よく分かります。産業医の先生と健康経営という施策を作るときも、打ち合わせに投資家の人たちといった医療外の人材が参加したりすると、先生方みなさん喜ばれます。

さて、まず自己紹介をしますと、私は経産省に入って以降、おおむねヘルスケアに関する仕事をしてきました。

1年目にヘルスケア産業課という部署を立ち上げて、途中で東日本大震災があった時にはエネルギー関連の仕事をしたりもしましたが、その後またヘルスケア産業課に戻ってからは、AMED(日本医療研究開発機構)の立ち上げとか、健康経営政策とか、グレーゾーン解消制度に関連してのヘルスケアベンチャーさんの新規事業支援とかをやらせていただいて。で、その後今度は産業人材政策室というところに異動した後、厚生労働省に出向させていただき。「健康日本21」などの公衆衛生全般に関わらせていただいたのと、PHR(パーソナルヘルスレコード)の立ち上げにも携わりました。

こういった具合で役人としては、色んな部署を異動したりしながらも、おおむねヘルスケアばかりをやらせていただいてまいりました。

で、ここからはちょっと概念的な話に入らせていただくのですが、やはり私は「健康づくり」というものがとても重要だと思っておりまして。健康づくりといっても色々とポイントがあるのですが、特に私が意識しているのが「健康は本人だけの責任ではない」ということです。

例えばメタボの人というのは「自己管理が悪い」と言われがちですが、例えば幼少期の教育環境であったりなど、自分ではコントロールできない周辺環境によっても生活のスタイルは変わるわけです。こういったことを最近グローバルでは「SDH(social determinants of health):健康の社会的決定要因」と表現されて、社会的要因や環境的要因といったものが注視されるようになっていますが、そんな中で私自身は「健康はアビリティ(能力)であるということを重視したいと思って取り組んでいます。要は、健康を「目的」にした瞬間に、ダメなわけです。健康というのはあくまで「能力」であって、その「能力」としての健康を評価しようという考え方が、例えばオランダではかなり大きく広まってきています。

※当日配信のキャプチャ

藤岡:もう少し分かりやすくデフォルメした話をしますと「現在割引価値」という考え方があります。

これはつまり、今もらえる100万円と50年後にもらえる100万円を比べたら、今もらえる方が嬉しいですよね、という話。これをそのまま健康に当てはめると、将来的な健康のために何か施策をつくったところで、人々は将来的な健康というものに価値をほとんど感じないのであまり効果がない。

※当日配信のキャプチャ

藤岡:であるならば、いま健康という「能力」を別の価値に置き換える(=評価する)ような施策を行なう方が良いのではないか、というのが、私がいま思っているところです。

※当日配信のキャプチャ

健康診断データの価値を最大化するPHR政策

藤岡:こういった考え方のもとで私がやっている政策についてご紹介をしますと、ちゃんと健康にお金使ってもらえるようなモデルを作りましょう、という政策をやっています。

具体的には、to Cで本人に健康のためにお金を使ってもらうのはかなりハードルが高いということで、to Bの「健康経営」という形でヘルスケアサービスがマーケットに入っていけるような仕組みづくりに取り組みました。

具体的な中身をいいますと、例えば健康経営に取り組んで、従業員の健康に投資できているような企業を褒めましょう、という仕組みを作ったりしました。

※当日配信のキャプチャ

藤岡:ありがたいことに、to B市場が伸びて、多くの事業者も参入してくれたわけですが、一巡まわって、「結局効果は出ているのか?」と、ヘルスケアサービスの導入メリットなどを本質的に求められるようになってきており、残念ながら、そこに対して、明確な数字で応えられている事業者はまだ少ないと思います。また、やはり医療に関する分野であることから、お座敷が高いといいますか、あちこちに落とし穴があるんですね。不規則、不出来なことをしでかすと、一発で信用を無くしてしまうという。

そういった難しさも分かって、じゃあこれからどうしようかと考えているのがちょうど現在、というタイミングです。もうひとつ是非ご紹介したいのが、先ほどもチラッと出たPHR(Personal Health Record)です。これは私自身、結構頑張って取り組んでいる政策でして、いま我々が受けている健康診断の情報を、2022年までには本人が全てマイナポータルで見られるようになる、電子データとして取得できるようになるところまで、仕組みを作りました。さらに2024年までには電子カルテの情報の一部も、本人に返せるようにする予定です。

※当日配信のキャプチャ

藤岡:と、ここまではまあ当たり前の話なんですけども、ここからはもう一歩踏み込んで、マイナポータルとPHR事業者がAPI連携できるような制度に取り組んでいます。

要は、マイナポータルで健康に関するデータを見れたとして、それだけでは誰も行動変容を起こさないわけですよね。

であるならば、自分が日々健康を管理しているアプリと連携させて、マイナポータル内の健康データと連動させれば、行動変容を促す仕組みを作れるのではないか。アプリのボタンをポチッと押したらデータが分かりやすくグラフ化されるとか、それに対してレコメンドをもらえたりとか。そういったことができる環境づくりに今、一生懸命に取り組んでいるところです。

健康を生活導線に紐づける

藤岡:このPHR施策に関して私が本質的な問題として捉えているのは、ずばりユースケースが積みあがっていない、という点です。要は、マイナポータルとPHR事業者がAPI連携できるようになったとして、じゃあ具体的にどのような使い方ができるのだろうか、というユースケースが足りていない現状があります。

実は今日は、そういったこともご相談できればいいなと思っております。

ただ、そういった観点から海外の事例をひとつ挙げると、トルコにミグロスというスーパーがあるのですが、そこでは購買履歴や食事歴のデータと連動させて、例えば「この人はタンパク質が足りていないから、鶏肉の10%オフクーポンをあげよう」といった具合に、健康づくりに向けた行動変容を促すサービスを提供しているんです。私はこれが非常に参考になると思っていまして。

生活関連サービス、生活動線の中に取り組んでしまうこと、それとその裏ではきちんとマネタイズもすること、こういったモデルを作っていくことが重要だと思っているんです。そういった意味では竹田さんも仰られたとおり、やはり異分野連携がもっと進んだ方が良いと私も思っているところです。

医療政策における「課題」とアプローチ

栫井:藤岡さんありがとうございました。ではここからディスカッションに入りますが、まず竹田さんから、何かご質問などありますか?

竹田:僕自身、健康経営というものがまだ不勉強なので藤岡さんにちょっとお聞きしたいのですが、国として健康経営の施策に取り組んだ中で、マスで見た場合のアウトカム、要は成果というのは何かあるのでしょうか?

藤岡:成果という意味では、企業単位では肥満の従業員が減ったとか、高血圧の従業員が減ったとか、そういった話が出始めています。ただしご質問のような、マスで見た場合の成果というのは、まだ見えていないのが現状です。

というのも、健康経営に取り組み始めてから、まだ10年弱しか経っておらず、例えば「疾病予防ができる」と言えるようなハードエビデンスを出すには、まだ時間が足りていないんですね。

それと、健康経営という政策自体が、健康投資を通じた労働生産性とかワークエンゲージメントといったことを主たる目的に置いていまして。いわゆる従業員のパフォーマンスにどう効果があるのか、といった観点からデータも意識的に集めているんです。逆にいうと、そういった生産性の面からのインパクトがないと、参加してくれる企業さんが増えていかない、ということもあります。

竹田:なるほど。健康経営の中で、医療的などうのこうのはあまり議論しないというお話に、僕は非常に賛成です。例えば藤岡さんが取り組まれているPHRとアプリの連携というのも、例えばガンをどうのこうのとか、病気をどうのこうのとか、そういった感じで直接的に医療に関連づけてしまう必要はないなと思っていて。

それは何故かと言うと、医療従事者として感じることのひとつが、やはり病気にかかってからではなくその手前、なんかちょっと怪しいかも…といった手前のところで健康を意識していただくのが良い、ということなんです。

もちろん病の中には急性発症するものもありますが、そういった手前の「ちょっと怪しいかも」というところで健康を意識する、あるいは医療にアクセスしてもらうことが、公衆疫学的には実は課題にもなっている。そういった中で、ダイレクトに病に関連付けてしまうのではなく、それ以外のいわば「ゆるい」ところから介入するというスタンスがあれば良いなと私も感じていて、そういった意味で藤岡さんの話は非常に面白いなと思うところです。

藤岡:まさにそうなんですよね。これは私の悩みでもあるんですけど、PHRを使う人、健康アプリを使ってる人というのは結局リテラシーが高い人なんです。

となると、そういったものを使わない人、つまり「無関心層」をどう取り込むかを考えたときに、竹田さんが仰るとおり「ゆるい」ところからアプローチしてハードルを下げるというのが、ひとつ大事なポイントだろうなと私も思っています。

竹田:例えばですけどスマホのゲームアプリって、漫画などの有名コンテンツとよくコラボしてるじゃないですか。ああいう次元で考えてみても良いと思うんですよね。

毎日体重のデータを打ち込んでいたら、何か特典がもらえたりボーナスポイントがもらえたりするような。先ほど藤岡さんも仰られた「生活動線の中に取り組んでしまう」というのは、つまりはそういうことかなと思ったりします。

栫井:では続いて、参加者の方からも感想なり問題提起などをいただければと思います。

参加者A:今日のお話を聞いてすごい印象に残ったのが、竹田先生が仰った「病気にかかってからではなくその手前のところで健康や医療を意識してほしい」というお話です。

というのも私自身、自分が携わっているプロジェクトの中で「コミュニティナース」と仕事をしているんですけど、彼らに言われたのが「私たちは月に2回患者さんには会うけども、それでも病に気付くタイミングが全然遅れてしまうことがある。そういった中で、例えば郵便局員さんなどの、患者さんと接触機会が多い人が異変に気付いて教えてくれることもある。そういった人々と医療従事者がより連携を取れるようになると良い」ということなんです。

一方で、例えば今日のお話にもあったデータ活用という面から考えてみると、患者さんの毎日の行動を都度データ入力できるかといったら、それはかなりの手間ですよね。それであれば、いまお話したような、日常的に接している人が気付く変化というものの方が、実は有効で利便性も高かったりする。

このあたり、データ活用においては、どうしてもデータを蓄積して何かしたい!という欲にかられたりもするんですけど、それによって他の大事なものを見落とすこともあるなと。そのあたりのバランスの取り方が難しいなと改めて感想として思いましたし、提起すべき課題にもなるかなと思います。

栫井:なるほど、ありがとうございます。

参加者B:今日のお話を聞いていてひとつ思ったのが、私も含めメタボ側の人間からしますと、健康のための行動変容をするにはある程度「強制」をしてもらわないと、実際問題として難しいよね、という気持ちが正直なところです。ですから仕組みを作る側に翻って考えると、ある程度「強制」をするような仕組みづくりというのも結構大事なんじゃないかなと思っているところです。

例えば私が仕事で携わっていた企業は「3年以内に昇進しなければ辞めてもらう」という組織でした。あくまで例えですけど、これくらいのことを言う、例えば「3年以内に痩せなければ辞めてもらう」くらいなことを言われれば、やはり痩せようと頑張るんですよね。例えばの話ですが。

もちろんこれを国がやるのは「個人の自由」があるので無理でしょう。でも企業であれば、ある程度はできる可能性がある。少し強引ですが、そういったことを考えるのも、無関心層を行動変容させる仕組みづくりにおいては実は大事なんじゃないかなと思ったりしました。

栫井:ありがとうございます。参加者のみなさまからもいくつか具体的なお話をいただいて感謝しています。

参加者Aさんのお話でもありましたけど、患者さんと接する人の間での役割分担というのは、ひとつ重要なポイントかなと思います。それこそお話にあった郵便局員さんが、例えば患者さんの自宅を訪問した時に、その患者さんの様子だったり、ちょっと血圧を測って端末にデータを入力するというような仕組みを作れれば、医療からのアプローチにずいぶん役立つわけですよね。

参加者A:そうですね。特に、定量的な数字以外の要素というのは、医療現場ではすごく注目されています。医師も看護師も、例えば患者さんのご家族が「会話をしていてなんか元気がないんです」とか話をすると、それをとても信用するんです。そういった定量的ではない、いわば「感覚知」というものをもっと共有できるようになると、だいぶ大きな変化がもたらされるんじゃないかなと思います。

栫井:ちょっと別の角度からの話になりますが、API連携の話をしますと、実は私も中小企業庁で、膨大に抱えているデータを民間企業に開放するから色んなアイデアを出してもらおう、というワークショップを私もやったことがあるんです。

ただ、その時も問題になったのが、ただ「データがあるのでアイデアください!」という状況だと、民間企業にしてみると「どんなサービスを提供したらいいんだろう」という議論が湧きづらいんですよね。

竹田:ビジネスを進める立場からすると「どこで差別化が図れるんだろう?」という目線で考える必要が生じるんですよね。自分のところで抱えているオリジナルデータであれば、それ自体が差別化できているものですが、国から供給されるデータとなると、こちら側のアイデアやビジネスモデルで差別化をしなければならなくなります。国のデータ開放に関しては、こういった難しさがありますね。

藤岡:個人的には、まさにそれも狙っているというのが正直なところです。というのも、データが特定の企業等に集まってしまっていて、そこだけが強いという状況が不健全だと私は思っているんです。そこを競争領域とするのではなく、仰られるとおりデータ活用のアイデアやビジネスモデルといった部分で競争してもらいたいという思いがあって、実は栫井さんや竹田さんが仰られているような、民間企業にしてみれば頭を使わなければならない状況に、あえてしているんです。

竹田:なるほど。それは政策の方向性としては正しいですね。ちょっと話題を変えて私が気になったのが、いわば医民連携といった形で、生活や民間事業の中にもっと医療が入ってきたとして。それによる医療側のメリットは今日のお話のなかで色々出てきましたけど、民間側にとってのメリットって何だろうな、ということを思いました。

藤岡:ひとつ考えられるのが、理想論ではなく、日常生活に落とし込んだエビデンスを出していくことかと思います。

例えば、ある意味ラーメンは不健康なものではあるのですが、ラーメンを食べるなと言われても、それは無理なわけでして。どの程度の頻度で、どのように食べればいいのか、という部分をちゃんと整理していくことが必要だと思います。きちんと頻度をコントロールできれば大きな問題はないと立証されれば、それは、ラーメン屋さんにとってはメリットになるわけです。

栫井:ありがとうございます。今回のテーマは色々と議論は尽きませんね。いったんこのあたりで終わりにして、引き続きこの後の交流会でコミュニケーションを図っていただければと思います。竹田さん、藤岡さん、今日はありがとうございました。

(執筆:小石原 誠、編集:深山 周作)