【イベントレポ】若手研究者育成から大学ガバナンス改革まで、国際競争を勝ち抜くための大学ファンド構想|裏霞

官×民のオンライン飲みイベント「裏霞」。

日本の大学の研究力・資金力が世界のトップ大学に差をつけられる中、政府の「10兆円規模の大学ファンド」の政策に注目が集まっています。

ゲストは、経済産業省から内閣府に出向中の水口 怜斉氏。大学ファンドの政策や、並行して推進する地域の中核となる大学への支援政策についてお話いただきながら、結論ありきではなく、現状、課題、将来へのビジョンについて、サロンメンバーと一緒に考えていきましょう。

※文中、意見にわたる部分は個人の見解です。
※本イベントは、オンラインサロン限定かつチャタムハウスルールにて開催しているため、本記事内では承諾の頂けた発言に限り掲載しております(希望によって記事では匿名化も行っています)。全内容が気になる方はぜひ下記バナーをクリックして、「パブリンガルサロン」のご入会をご検討下さい。

使い切り予算から大学ファンドへ

水口氏は経済産業省に入省後、投資環境改善やスタートアップ支援、起業家育成に携わり、2021年からは内閣府に出向。現在は、大学ファンドの制度設計や大学改革業務に取り組んでいる。

水口氏の所属する内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局は、大学の経営側から大学の現状や課題を捉える立場にある。

水口氏:アメリカの調査会社が毎年行っている世界大学ランキングでは、論文数などで世界の大学をランキング化しています。研究者からは賛否両論あるランキングですが、簡単に言えば、このような指標でより上位を目指すことも大学ファンドの仕事のひとつです”

大学ファンドは岸田政権が掲げる「成長と分配」における「成長」の一丁目一番地だ。政府は10兆円規模の大学ファンドの実現を2022年までに実現することを掲げており、博士課程を含む若手研究人材の育成に力を入れている。

ただし、大学ファンド自体が10兆円を研究費としてばら撒くわけではない。ファンドは国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)の内部に設置され、10兆円を元本としての運用を行い、得られた運用益から研究大学に支援を行う仕組みだ。

水口氏:私がここに来て面白いなと思ったのは、予算のありかたです。通常の研究に関する予算は、予算要求をし、その年度中に執行する単年度主義が基本となっています。一方で、今回はファンドなので、運用により元本は毀損しないようにする発想です。10兆円を使い切るのではなく、そこから新しく予算が出てくるというのは面白いチャレンジだなと思います。”

なぜ大学ファンドなのか?日本の現状と改善案

水口氏によると、大学改革には①人材、②資金、③ガバナンスの3つの要素が必要だという。

特に資金は、日本の大学における弱点のひとつだ。海外の大学では寄付文化やエンダウメント(寄贈基金)を利用する文化が根付いており、個人や民間部門から多くの資金が流入する。

また、米国の博士号取得者は9割近くが金銭的な支援を受けており、平均額は日本円で270万円ほどになる。一方で、日本の博士課程学生では54%以上が支援を受けておらず、180万円以上の支援を受けている学生はわずか10%程度にとどまっている。研究に身を置く若手研究者の経済的支援をどう改善していくかは、大学ファンドの大学支援にかかっているともいえる。

ガバナンスにおいては、大学経営と研究の質をどう両立するかが課題だ。現在、過半数が学外者で構成される経営評議会などが学長の選考や監査に関わっているが、大学ファンドの構想にあたり、より良い大学経営ができる仕組みについて議論が行われている。

水口氏のプレゼンテーションの最後では、大学ファンドに関する現時点の方向性が示された。

1つ目は、大学側のミッションの見直しだ。大学がステークホルダーに対して還元できる成果とは何かを再考し、人類経済社会の貢献に資する研究力を向上させることを目指す。

2つ目は、潤沢な外部資金の確保と毎年3%の事業成長だ。英米の主要研究大学の年間実質平均成長率は3.8%となっており、少なくとも3%の成長率を維持しなければ世界水準の研究環境を維持することは難しい。

3つ目は、大学の成長を可能にするガバナンスシステムの導入だ。学長が最高意思決定者となっている現在の体制を見直し、最高意思決定機関としての合議体を設置。学長の大学経営に関する資質を重視するとともに、経営幹部の充実も目指すこととしている。

大学が自ら経営を考える仕組みづくりを

水口氏のプレゼンテーション終了後、サロン会員との質疑応答がなされた。今回もその一部をご紹介しよう。

サロン会員①:そもそも、大学経営におけるインセンティブはどんなものがあるのでしょうか。個人的には、インセンティブ設計がうまくいっていないから、今回のような大学ファンドによって構造を大きく変えていこうという話になっているのかと思いました。

水口氏:現状では、大学内の権力に対するモチベーションはあるとは思っています。例えば、教授会などでは学内で凄く派閥がある。ただ、海外では、キャリアの途中で研究者として道を歩むのか、大学の経営者として執行側にまわるのかというように、キャリアが明確に分かれているようです。

とは言え、一番のインセンティブは給与だと思います。日本の学長の場合、1千万、せいぜい2千万くらいかと思いますが、海外の学長では億単位になる場合もあります。まさに、企業の経営者と同等の評価が経済的に保障されているということです。そのあたりのモチベーションは国内外で大きく異なると考えています。

サロン会員②:大学ファンドから大学に与えられるお金は、どのような用途に使われるのでしょうか。例えば留学など、幅広い支援に使われるのでしょうか。

水口氏:用途については、まさに今議論している段階です。ファンドは研究助成業務への支援を行うことになるため、基本的には研究設備を買ったりとか、博士課程の学生の生活費を補填するような用途が考えられます。

サロン会員③:対象が研究助成業務というのは疑問があって、今後は海外の優秀な学生を確保するためのマーケティングや広報なども重要になってくる。そのための人材のために支援が受けられたらより良いのではないでしょうか。

水口氏:大学ファンドの関係者の中にはあまりお金の使い道を限定したくないと考えている人が多いように感じます。こちら側がお金の使い道を限定しすぎると、大学側に考える力が無くなってしまう。

国から通知が来たらそれ通りにお金を分配するしかなくなってしまうんです。そこに対しての問題意識はあって、「書いてないことをやってもいいよ」ということを書いてあげるような、そんな余白のある設計があっても良いと思っています。

──裏霞ではその後もサロン会員との熱い議論が続く。