【イベントレポ】スマートシティを持続的な取組にするのは?|勝手に有識者カイギ

IoTやロボット、AI、ビッグデータといった新たな技術を活用することで、様々な社会的課題を克服を目指す未来社会「Society5.0」。そのショーケースとして国が推進している「スマートシティ」。

全国各地で様々なプロジェクトが進められているスマートシティに官民連携は必要不可欠であり、地域住民の生活等に関するデータを使用する取り組みであることから、様々な課題を内包しています。

今回は、国土交通省の都市計画課にてスマートシティを担当している森 英高(モリ ヒデタカ)氏と、同じく国交省都市計画課の元職員であり現在はニューラルポケット株式会社の事業戦略部理事である一言 太郎(ヒトコト タロウ)氏をお迎えし、スマートシティ推進における課題やあるべき進め方、今後に向けた展望について議論していきます。

※文中、意見にわたる部分は個人の見解です。
※本イベントは、オンラインサロン限定かつチャタムハウスルールにて開催しているため、本記事内では承諾の頂けた発言に限り掲載しております(希望によって記事では匿名化も行っています)。全内容が気になる方はぜひ下記バナーをクリックして、「パブリンガルサロン」のご入会をご検討下さい。

「スマートシティ」推進における課題

栫井(ファシリテーター):スマートシティは課題を抱えているところもあります。そもそも私自身「スマートシティ」の定義がいまいち分かっていなかったり(笑)

まずはスマートシティの現状と課題について議論していきましょう。

森氏:課題はいっぱいありますね(笑)

まずスマートシティには、行政主導と民間主導の2通りの進め方があります。行政主導は「課題に対してこうしていこう」という考え方が強く、民間主導は「こういう技術があるから使ってみよう」という考え方が強い。考え方に違いがあるので、それぞれで抱えている課題にも違いがあります。

行政主導の場合、課題解決を優先する考え方が強いので、経営感覚といいますか、サステナブルへの感覚が薄いという課題があります。一方で民間主導の方は利便性を追求し過ぎる傾向があり、住民の合意をうまく得られないなどの問題があります。

行政と民間どちらかが主導権を握るよりも、両者の力関係のバランスがとれることが、スマートシティがうまくいく条件であるように感じます。

栫井:一言さんはいかがでしょう?

一言氏:森さんが仰ったことが本質だと思います。行政が「分かっている風」なんだけど実はほぼ民間の考え、というようなケースもありますし、民間側も公共の動き方や気にするところを十分には理解できていないケースもあるような気がします。

それと、スマートシティにはどうしても投資が必要です。一都市に数十億円もの投資をかけている外国の事例を見ると、全国で20億円の補助金という日本の状況では、まだまだ投資規模が小さい、という印象です。

栫井:なるほど。投資の額が小さいのは問題ですね。

それにここまで出てきた課題の中だと、「住民合意」は相当難しそうですね。国がやりたいことと基礎自治体レベルでやりたいことに相違があったり、住民も一枚岩ではなかったりするわけですから。

特に民間主導で進めていくと住民合意のところでつまづいてしまうとのことですが、どうすれば乗り越えられるのでしょう?

森氏:そこは是非、私も知りたいことです(笑)

ただ確かに「住民からの信頼」という意味では、民間ではなく行政でないとアプローチ出来ない部分があると思います。「住民合意が難しい事例」として、例えば、GPSなどのデータを実際に使っていくプロセスがあります。どうしても「プライバシー保護」や「データリテラシー」という観点から、住民からネガティブな意見が出たりして、住民合意は難しいように感じます。

一言氏:確かにそういった意見が出てしまうと、住民合意をとるのが難しくなりがちですね

一方で、暮らしの中で自然と使っているサービスでも色々なデータがとられています。そういう部分に対しては人々は違和感を覚えませんが、「行政が使用する」といった途端に目くじらを立てる人がまだまだいるように思います。

栫井:民間のサービスでは、みんなサービスを使うことを自ら選択しているから、データを活用することを「まあいいか」と容認してくれていますね。しかし行政の場合は「ちゃんとやってくれよ」といった具合に、要求レベルが高くなるように感じます。

一言氏:行政の場合は、提供したデータに対するアウトプットが遅いことが問題なのだと思います。今行われている行政のスマートシティって、格好の良い、壮大なことを進めようとしてしまうものが多いような気がします。

そういう取組だけではなく、例えば「家の前にある公園がちょっと良くなったな」とか「駐車場がどこが混んでいるのかすぐ分かるようになった」といった、投資が数百万程度の小規模だけど、地域の生活環境は確実に良くなる取り組みを積み上げていくことが、住民の合意を得るために大事だと思うんです。

街づくりでは「小さく生んで大きく育てる」ということがよく言われます。なぜかスマートシティはこの考え方があまり適用されていないような印象があります。住民合意の観点では、こういったアプローチを積み重ねていきたいとも思います。

森氏:一言さんの仰るとおり、いま「モデル事業」と呼ばれているようなものって、かなりスケールが大きいんです。

ただ今後は、小さな事業に対しても取り組めるような仕組みを国交省も整えようとしているので、各自治体にはそうした仕組みを是非利用してほしいと思います。

「スマートシティ」の再定義と取り組みのアップデート

栫井:ここからは、今後どうやってスマートシティの取り組みをアップデートしていくべきかを議論していきたいと思います。

個人的には冒頭でもお話したとおり、そもそも「スマートシティ」の定義があやふやで人によりけりというか、行政や民間が「どういうことをやればいいのか」という目線がバラバラになっている印象を持っています。そのあたり、お二方はどのように感じますか?

一言氏:私は、国交省ではスマートシティの担当ではなく、あくまでスマートシティという政策が育っていく過程を近くで見ていただけですが…。そもそもスマートシティに対するアプローチは本来、「計画部門」と「交通部門」、そして「エネルギー部門」の3つに大別できると理解しています。

これらの中で国交省の都市計画課が一番最初に「スマートシティ」として取り組もうとしたのは、計画部門のアプローチでした。その後、スマートシティは行政だけでは出来ないので、民間と組んで取り組むことになり、交通やエネルギー等、対象が幅広くなっていったように見えました。といっても、これはあくまで私から見えている世界であり、エネルギーの業界の方が、「スマートシティというのはそもそもエネルギーの話だ」と言っているのも聞いたことがあるので、視点によって違うのだと思います。いずれにせよ、対象が非常に幅広くなって、全体像がつかみにくいというのが曖昧さの原因ではないかと思います。

とはいえ、わざわざ計画・交通・エネルギーを区切っても仕方のない話であり、これらをひっくるめて「スマートシティ」として考えることは、実はそれほど問題ではないと思っています。特に「都市計画」の観点から考えると、交通やエネルギーも一体的にコントロールすべきもの、ということもできます。

今後は、交通やエネルギーはもちろん、都市を構成する色々な分野に対して、データ活用のアプローチが「スマートシティ」の取り組みとして行なわれるようになるのではないでしょうか。

森氏:一言さんの仰るとおり、データをうまく結合させてサービスを創出するというアプローチが、今後は「スマートシティ」の取り組みとして定着していくと思います。

栫井:なるほど。となると例えば「我が街ではスマートシティとして、カーボンニュートラルに取り組んでいます!」という街があったとしても、「いや、スマートシティってそれだけではないですよね?」となるわけですね。

森氏:そうですね。その取り組みでとれたデータを他の分野にも活用し、市民のQOL向上につなげることではじめて「スマートシティ」と言えるでしょう。

一言氏:カーボンニュートラルを例にすると、「カーボンニュートラルの低減のために様々なデータをとって活用します!」という考え方が、スマートシティの取り組みであると考えます。

車の乗り方やバスの使われ方とかのデータが集まることで、CO2排出量が街全体でこれだけ削減できました、という説明ができるようになれば、それこそが「スマートシティ」になるというイメージです。

「スマートシティ」で今後必要なのは「サステナブルな感覚」と「オープンデータの活用」

栫井:参加者の方から「都市のIoT化みたいな話なんですかね?」というコメントをいただいていますが、そのとおりですね。そう考えると、森さんが冒頭でスマートシティの課題として挙げてくださった「サステナブルへの感覚の薄さ」という話にも結びついてきます。

財務省から予算をたくさんとってバラまくと、スマートシティの本質的な考え方にカスッてもいない取り組みにさえお金がついてしまう。すると、お金がつく間は良いものの、お金がつかなくなってしまった途端に「これ何だったんだ?」といった具合に、よく分からないままで終わってしまう。

これが「サステナブルな感覚の薄さ」という課題の構造であるように感じますね。

森氏:まさに仰っていただいたとおり「お金が途切れたら終わってしまう」ような取り組みが、今は多いように感じます。

一言氏:私も個人的には、例えば都市のデータを継続的にとって、後はそれをどう活用するかの知恵を出しあう、といったような持続的な取り組みにお金をかけるべきだと思います。

栫井:「サステイナブルにする」という観点からは、例えば民間のビジネスとしてうまく回っていくようにすれば、行政がお金を出さなくても済むので、とても良いですね。

一言氏:そうですね。例えばニューラルポケットが展開しているデジタルサイネージについていえば、広告収入を得られるような形にすることで、データ取得そのものの経費を抑制できる可能性があります。

栫井:サステナブルな仕組みを構築するためには「どこにお金を出して、どこからお金を儲けるのか」を考えることが重要、というわけですね。例えばデータ収集にお金を費やしたとして、そのデータを活用して市民に有料のサブクスのサービスを提供できれば、データ収集に費やした費用を賄うことができます。

ただ、こうしたお金の流れを生み出すためには、ある程度人口が集まっている必要があるようにも感じます。そのあたりは一言さん、どのようにお考えでしょうか?

一言氏:確かに人口が少ない地域の場合、例えば交通部門でアプローチしようとすると「観光による人流」を加えた仕組みを構築しないと厳しいでしょうね。データを活用しようとなると、やはり人口や人流の多さが必要になることは多いと思います。

一方で、過疎地域の場合は、その特性に対応するための議論が出てくると思います。例えば「遠隔医療」や「遠隔教育」とか。こういった「通信」の活用も、大きな意味ではスマートシティの取り組みと言えるでしょう。

今後、人流や車の交通量といったデータは、当たり前にオープンデータ化される時代が来ると思っています。というのも、例えば中心市街地の活性化では「商店街の人流がどのくらいあるのか」というデータが有るか無いかが、新規店舗の進出に影響を及ぼします。

そういったデータを整備できた地域が街づくりに成功する事例が出てくると、他の地域でもオープンデータ化がどんどん広まっていくでしょう。

栫井:森さんは、スマートシティにおけるデータ活用の今後について、どのようにお考えでしょう?

森氏:官のデータをどんどんオープン化して、データ活用の呼び水となっていけばいいなと思います。

データを課題抽出の手段として活用してもらうとともに、住民にも議論に参加してもらいながら、良い施策を考えられるようになれば。データのオープン化は、合意形成にこそ力を発揮できるものですから。