【イベントレポ】本当は泥臭い官民共創。三重県から学ぶ自治体×ベンチャーの課題・ポイント|勝手に有識者カイギ

官民連携やオープンイノベーションの取り組みが全国各地の自治体で動き始めている昨今。試行錯誤の取り組みが進む中で、行政組織特有の要因に起因する課題がさまざま露呈し始めています。

今回は、三重県で行なわれている「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」を具体的なケースとして、事業発足時の担当課長であった上松氏(デロイトファイナンシャルアドバイザリー合同会社、元三重県庁職員)と、コンサルティングの立場から事業を支援していた中島氏(デロイトファイナンシャルアドバイザリー合同会社)をゲストにお迎えし、自治体が官民連携やオープンイノベーションに取り組むにあたっての課題や解決策の方向性について議論を行ないました。

※文中、意見にわたる部分は個人の見解です。

※本イベントは、オンラインサロン限定かつチャタムハウスルールにて開催しているため、本記事内では承諾の頂けた発言に限り掲載しております(希望によって記事では匿名化も行っています)。全内容が気になる方はぜひ下記バナーをクリックして、「パブリンガルサロン」のご入会をご検討下さい。

三重県の「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」について

――パネルディスカッションに入る前に、三重県が実施している「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」について、上松氏から事業の背景や内容について紹介。

※画像引用:クリ“ミエ”イティブWebサイト

上松氏:三重県では、スタートアップのエコシステムを創出することを目指して、数年前から様々な施策を実施しています。「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」もその内の一つとして実施されているものです。

なぜ三重県ではスタートアップのエコシステム創出を目指すようになったのかというと、三重県が過去に取り組んだ「企業招致」での経験がきっかけになっている、とされています。皆さんもご存じのとおり、シャープの亀山工場です。

亀山工場が来たことで三重県の亀山市は大きな税収を上げ、地方交付税の不交付団体になるまでに財政が良くなりました。ところが、その後シャープは経営が悪化。亀山工場も一時期、危機的な状況に陥り、亀山市も大きな打撃を受けたりしました。

その時の経験から、三重県の中では「企業誘致も重要だが撤退時のダメージが大きい。外からの誘致だけではなく自分たちでコツコツと新しい産業を育てていく取り組みも必要だ」という考え方が醸成され、様々な施策が進められるようになった、というわけです。

そのような中で2年前の2019年、経済産業省から出向してきた私が立ち上げたのが「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」です。これは、私自身が三重県に出向する直前まで出張していたアメリカで学んだ「ベンチャーアクセラレータ」のノウハウを活かしたいと思って立ち上げたものです。

「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」では、「自由」「安心」「安定」の3つのキーワードを設定して事業を展開しています。本事業が始まったのはちょうど1年半前、新型コロナの感染が広まり始めた時期で「今後、地方における生き方の考え方が変わるんじゃないか」という考えもあり、このようなビジョンを描くことになりました。

特に「自由」というテーマに関しては、これまで地方では「都会のような教育や仕事の機会が乏しい」ことが課題でありました。そういった機会が乏しいために、多くの若者が三重県の外に出て行ってしまうことが、地方創生のネックだったんです。ところが新型コロナショックにより、教育や仕事のオンライン化が急速に進んでいったことで、そのあたりのネックが解消する方向に向かい始めた。これは、地方にとっては大きなチャンスでもあるので、テーマの1つとして据えました。

「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」について具体的に説明しますと、本事業は県内外の大企業やスタートアップからアイデアを募集し、三重県を実証フィールドとして活用していただく取り組みを支援する事業です。ちょうど現在、事業者の選定が進んでいるのですが、今年は「次世代モビリティ」「脱炭素」「防災」「ヘルステック」「一次産業」「観光」の6テーマで事業提案を募りました。

具体的にどのようなサポートをするのかというと、「①コーディネーターによるハンズオン支援」「②専門家からのメンタリング機会の提供」「③認知度向上に向けた情報発信支援」「④協力者や顧客等のマッチング支援」「⑤コミュニティ形成支援」「⑥実証実験・社会実装に係る資金調達支援」の6つを用意しています。

昨年からの1年間で実施した手ごたえとしては、①~④の支援が事業者に喜んでいただけた印象です。事業実施に際しては資金調達も重要ですが、特に地方においては地域のネットワークづくりやフィールドの用意というのが、外から来た事業者にとっては難関なんです。そこを三重県庁がサポートできたというのが、事業者からは非常に重宝された部分です。

一方で、事業を進めた中での課題についてお話しますと、当初はやはり県庁内でコンセンサスを得ることが大変でした。特に昨年は新型コロナの問題もあり「県内の事業者が大変な中で、外からの事業者にお金を出すのか?」というネガティブな反応もありました。他にも色々と課題はあったのですが、それらについては後にお話します。

この他に中島さん、補足等ございますか。

中島氏:私はコンサルの人間として外から事業を支援する立場でしたが、特に感じたのが「コンサルの人間の使い方や位置づけ」が大事ということです。こういった現場ではよく「Will」「Can」「Must」の3つのキーワードが出てくるのですが、これらのうち「Will」については、事業を主体的に進める当事者、すなわち自治体の方々の中から生まれてくるべきものだと思います。それに対して我々のようなコンサルの人間は「Can」の部分をサポートしていくのですが、やはり「Will」の部分が大きくないと、それ以上の事業にはなりません。

そういった考え方からいうと「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」では、上松さんが三重県の産業だけではなく住環境もひっくるめて価値を見出して、そのことを「想い」と「論理」の両輪でもって三重県庁内を口説いていったことが非常に良かったと思っています。

栫井(ファシリテーター):ありがとうございます。上松さんの想いや行動力がまずあって、外側からのサポートとして中島さんの支えがあって。いずれもが事業推進には欠かせなかった要素だということでしょう。

オープンイノベーション事業を進めていく上での「課題」とは

――ここからは、オープンイノベーション事業を進めていく上での課題についてディスカッション

栫井(ファシリテーター):ではここから、ディスカッションに入っていきたいと思います。オープンイノベーション事業を進めていく上での「課題」についてお話いただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。

上松氏:課題は色々とあるのですが、その中でもよくあるのが「短期的な成果と長期的な成果の見せ方」です。というのも、こういった社会のシステムを構築するような事業は、目に見える成果が出るには10年単位の長い時間がかかります。

そのことを役所の方々も理解はしてくれるのですが、やはり役所の場合は単年度で予算が組まれたり、単年度で人事評価がされたり、人の入れ替わりも激しいといった特徴がありますから、短期的な成果の見せ方も重要になるのが実状です。そういった点のバランスの取り方は、非常に難しいです。

中島氏:仰るとおりですね。加えて言うならば、何年か前に「錯覚資産」という言葉も流行しましたが、人間は「何を言うか」よりも「誰が言うか」を重視したりなど、実は判断基準が論理的ではないところが多分にありまして。事業を進めるにあたっても時には「雰囲気」や「やっている感」を見せるようなことも、最終的に事業目的を達成するための手段として行なう必要があると思います。

栫井(ファシリテーター):確かに。部署の人間が話をするよりも、知事が登場してプレゼンをした方が地元メディアも取り上げやすくなり、結果的に市町村の人たちも協力しやすい雰囲気が作られる、ということはありますよね。

上松氏:そうですね。普段は「ローカルメディアは信用しない」と仰る方でも、いざ自分が紙面に載ると保存をしていたりとか。そういうことはあったりします。

栫井(ファシリテーター):私も以前、関係していた長野県の事業に関するリリースを出した時に「日本経済新聞」と「信濃毎日新聞」に取り上げていただいたんですね。すると、長野県のみなさんは地元の信濃毎日新聞に記事が載ったことにリアクションしてくださるんです。地方によっては全国的な大手メディアよりも、地元のローカルメディアの方が影響力が大きいことがあるようです。

当事者が意欲的・主体的な姿勢を持つことの重要性

栫井(ファシリテーター):参加者の方から質問をいただいていますね。

「動機とか人格形成とか、“これをやらないと人生終わらない”ぐらいの意識を持っている人が、組織の中にいるかどうかということが重要なのでしょうか?」と。

上松さん、いかがでしょうか。

上松氏:そうですね。「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」では、そういった意味では非常に周りに恵まれていたと感じます。

特に、私の直属の上司の方が、このような事業に意欲的でして。それと知事が私と同じ経済産業省出身ということも、非常にシンパシーを感じることができました。こういった上層部からの理解は、私が自分の持っているノウハウを事業の中で試していくにあたって大きな助けになりました。

それと、本日も参加していただいていますけど、私を支えてくださった部下のみなさんも、とても意欲的かつ主体的に取り組んでくださったことも大きかったです。

栫井(ファシリテーター):同僚の方が聞きに来てくださっているのは、嬉しいですよね。三重県のみなさまの温かさを感じます。

スタートアップを呼び込むために自治体ができることとは

栫井(ファシリテーター):別の質問もいただいておりますね。「スタートアップを外から呼び込むことの難しさとは?」とのことで。中島さん、いかがでしょうか。

中島氏:難しいですよ。逆にお尋ねしたいのですが、どのような観点からの「難しさ」についてお伝えすればよろしいでしょうか。

参加者:スタートアップを口説く際に、どういったところを取っ掛かりとしていけばよいのか、という点でお教えていただきたく。

中島氏:ありがとうございます。そもそもスタートアップの立場から見ると、オープンイノベーションのようなスタートアップへの支援事業は最近かなり増えていて、玉石混合になってしまっている状況です。

そのような中で、予算を多くはかけられない地方自治体が自分たちの事業を認知してもらうためには、自治体の目指しているビジョンや企業に提供できる価値を丁寧に棚卸した上で、企業に対して明確にそれを伝える姿勢が必要だと思います。

栫井(ファシリテーター):端的にいえば「ビジネスメリットを具体的に提示する」ということだと思いますが、それって実は役人にとっては苦手分野でもあるんですよね。ただ、そういった点をきちんと話せるようになることは、確かに重要な第一歩だと思います。

中島氏:そうです。それと先ほど上松さんから「地域のネットワークづくりやフィールドの用意を自治体がサポートできたことが、事業者からは重宝された」というお話があったと思いますが、その点は自治体の大きな強みであると感じます。

私も以前ベンチャー企業100社ほどに「支援事業を受ける自治体を選ぶ基準」について尋ねたことがあるのですが、最も多かった意見が「熱意のある行政マンの存在」だったんです。調査でもそういう結果が出ていますし、実際の事業の中での意見としてもそういうお話が出るということは、やはり重要な要素なのだろうと思っています。

栫井(ファシリテーター):上松さんはいかがでしょうか。

上松氏:ひとつあるのは、地域独自の課題解決という切り口からアピールするのは得策ではないかなと思っています。差異はあれど、抽象化してしまえば日本各地の地方が抱える課題はどこも同じようなものですから。

それよりも、中島さんがご指摘くださったような協力体制や提供できる実証フィールドといった行政ならではの魅力をきちっとアピールした方が良いと思います。

栫井(ファシリテーター):なるほど。ありがとうございます。

地方の活力継続に向けたビジョンと打ち手について考える

――ここまで出てきた課題も踏まえて、地方の活力継続に向けては、どのようなビジョンや打ち手が必要なのかについて議論。

栫井(ファシリテーター):上松さんは三重県に出向される前にアメリカへ出張されて、サンディエゴにて「ベンチャーアクセラレータ」という先進例について学ばれたとのことで。ぜひ「ベンチャーアクセラレータ」の仕組みなどについてもご紹介ください。

上松氏:私がいたベンチャーアクセラレータは、非営利法人として組織・運営されておりまして。運営等の費用はサンディエゴ市はもちろん、地域の企業や税理士事務所、法律事務所などといった将来的なステークホルダーからの寄付で賄われていました。この点は日本とは異なる点で、アメリカの場合は「寄付」の文化が非常に成熟していて、行政からの支援よりも民間同士でお金がまわる仕組みになっているんです。

ですから「どのようなビジョンが必要なのか」という切り口から話をすると、今現在は「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」も税金が投入されて運営をされていますが、このままだとサステナブルではありませんよね。どこかのタイミングで民間同士でお金がまわるようにしていく必要があるわけです。

例えば地銀を巻き込むとか、外部から出資を募るとか、企業版ふるさと納税のスキームで恒常的に入ってくるようにするとか、色々と方法は考えられます。が、いずれにしろ三重県の強みを対外的にも理解を浸透させて、スタートアップのエコシステムとしての三重県の立場を確立することが重要になってくると思います。

栫井(ファシリテーター):なるほど、ありがとうございます。民間同士でお金がまわるスキームというのは、ひとつのビジョンとして目指すべき姿かなと思います。

ここで私の課題感についても共有しますと「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」のように、ベンチャー企業が地方での創業に取り組めるような「きっかけづくり」の仕組みは出来あがってきた実感はあるのですが、その次に必要な「定着」が難しいなと感じていまして。そのあたりは上松さん、いかがでしょうか。

上松氏:仰るとおり「定着」というのは難しいです。

こういったイノベーション事業は大きく2つに分けられます。ひとつが「行政課題や地域課題を解決するためのもの」、そしてもうひとつが「エコシステムのように産業そのものの創出を目指すもの」です。

これらのうち、後者の「産業そのものの創出」というのは、経済産業省でさえも過去にやったことがないような、本当に難しく奥深い課題なんです。

「クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」に身を置いている私の考えとしては、今後は「テーマを絞ること」が必要になってくると思います。テーマが広いままですと、ベンチャー企業からは三重県がやっている取り組みが見えやすく評判も上がりやすいんですけど、最終的なゴールが見えづらくなってしまいます。

ですから、最初は広く浅く企業を募ったとしても、どこかのタイミングでテーマを絞りこんで、企業と地域あるいは企業間同士の関係性を深めていくことに注力する必要が出てくるでしょう。

栫井(ファシリテーター):参加者の方からも、同様の意見をコメントでいただいておりますね。「テーマを絞り込んで最終的なゴールを明らかにすること」は、大事なことだと思います。

ただ一方で、自治体の中期的計画を見てみると、どこも「若者が住みつく街」あるいは「環境とエネルギー」など、ゴールが抽象的なことが多いんですよね。要は、取捨選択をすることが苦手なのも、行政の特徴だと言えるのではないでしょうか。

上松氏:そうなんですよね。どうしても行政内の議論は、誰にとっても当たり障りのない結論に終着してしまうきらいがあります。

中島氏:私も「同質化圧力」の最たるものが行政組織なのかなと感じています。具体的ではあるけど誰かが痛みを伴うリスクもあるような提案を、行政からはなかなか出しにくいのが現状です。それで致し方なく、耳障りの良い抽象的な提案を出すことになるけど、それだと具体性がないために行政の発展にはつながりづらいですよね。

栫井(ファシリテーター):行政組織では取捨選択をするという合意形成をしづらいことが、政策のビジョンをきちっと尖らせることができない要因になっている、ということですね。

上松氏:それともう一つ重要な要素として、「県庁」と「基礎自治体」の関係性も挙げられると思います。私が身を置いている三重県では、幸いなことに県庁と基礎自治体の関係性が比較的良好なので、三重県全体が一体となってビジョンを描きやすい状況が整っているんです。一方で、全国を見てみると、例えば県庁と基礎自治体の関係があまり良くない地域が割と多くあったりします。要は、政令指定都市や市区町村との連携がうまく出来ないと、県庁としてもきちっとしたビジョンを描くことは難しいわけです。

栫井(ファシリテーター):その点は、政令指定都市を抱えるような大都市ほど難しいかもしれませんね。

上松氏:そうですね。場合によっては県庁よりも政令指定都市の方が意欲的な人材が集まっているようなこともあります。そうなると、県全体で統一したビジョンを描くことは一層難しくなります。

栫井(ファシリテーター):なるほど。ありがとうございます。今回は三重県の事例を軸に議論してきましたが、今後は他の自治体も取り上げて議論してみたいなと思いました。本日はありがとうございました。

――以降、交流会に続く。

(ライティング:小石原 誠、編集:深山 周作)