【イベントレポ】霞ヶ関は、建築基準まで「コミュニケーションが取りづらく」つくられている!?|ここが変だよ霞が関 勝手に有識者会議 #06

国家公務員の志望者数が減少し競争率が過去最低を記録したり、若手官僚の早期退職が急増したりなど、最近特に話題になることが多い「霞が関での働き方」。

今回は、民間出身で現役の農林水産省職員である渡辺氏、外科医として勤務後に厚生労働省に入省した経歴をお持ちの安水氏、そして霞が関の省庁庁舎の改修設計に携わってきた建築士の立川氏をゲストに迎え、霞が関における働き方について、コミュニケーションのあり方や会議の運営方法などを題材として議論を行ないました。

当事者はかく語りき。
では、その様子をサマリでお伝えします。

※文中、意見にわたる部分は個人の見解です。
※本イベントは、オンラインサロン限定かつチャタムハウスルールにて開催しているため、本記事内では承諾の頂けた発言に限り掲載しております(希望によって記事では匿名化も行っています)。全内容が気になる方はぜひ下記バナーをクリックして、「パブリンガルサロン」のご入会をご検討下さい。

霞が関の「働き方」における課題

――まず、霞が関における働き方について、登壇者それぞれが認識している現状や課題について。

渡辺私は民間企業から農林水産省に移ってきた身ですが、霞が関という職場の労働環境が特別ブラックだとは感じないのが正直なところです。ですが「議論がない職場だな」ということは、かなり気になっています。

小説やドラマとかだと、議論をして政策を作っていったり、人に会ったり現場に足を運んだりして仕事を進めていく様子が描かれていますけど、実際には議論をすることよりも、上司の機嫌や意向を優先して仕事をしているんですよね。

私自身は「それでいいのかな?」と思いつつ「上司さえクリアできれば自分がやりたい仕事ができるんだな」とポジティブに捉えもしましたけど、議論もなしにトップダウンあるいは立案者の考えだけで政策を決めてしまうと、イノベーションが生まれないわけですよね。

本来であれば、雑談レベルでもいいので議論を行なった上で政策作りを進めていくべきですが、実際にはそういう場がほとんど無い。もちろん議論が好きな人はいますけど、そういった人とコミュニケーションをとるためには業務以外の時間や機会でやりとりしないといけない。

つまり「議論を行ないやすい空気」になっていないことが大きな課題だと思います。

栫井(ファシリテーター):確かにそうですね。私も経済産業省で経験しましたけど、上司などに迂闊に議論を持ちかけようとすると、強い拒否反応が返ってきたりするんですよね。

省庁によっては、議論を持ちかけること自体が難しかったりもするようですから、「議論を行ないやすい空気」を作ることは重要だと感じます。安水さんはいかがでしょう?

安水渡辺さんのお話とは別の視点からの意見になりますが、私が厚生労働省に入った時に言われて驚いたのが「厚生労働省の仕事では“私”という主語はない」ということだったんです。

どういうことかと言うと、仕事として対外的なコミュニケーションを取るときに、先方からは「安水さん」という個人ではなく、「厚生労働省の●●局の●●課の補佐の人」というポストの人として向き合われるんです。ちょっと寂しい感じがしますよね。

さらに、そういう向き合われ方を続けていると、霞が関にいる人間は一人称が「私」から「我々」に変わっていってしまう。要は「安水さん」という「個」が失われてしまう訳です。

そうすると、個人として持っているはずの問題意識や意見といったものも出しづらくなってしまう。このことが課題かなと私は考えています。

栫井(ファシリテーター):ありがとうございます。そのことは私も問題意識を持っていて、このサロンを作った理由のひとつにもなっています。どうして「我々」という一人称に変わっていってしまうのでしょう?

安水何か問題等が発生した場合に「誰が言ったんだ?」と詮索され、責任が個人に紐づけられてしまう可能性があることが良くないのかな?とは思いますが…。

栫井(ファシリテーター):それはありそうですね。逆に経済産業省だと、政策が盛り上がった時に「俺がやったんだ!」と複数の人がアピールしだすことが起きるんです。

そう考えると、安水さんがいらっしゃった厚生労働省のように「規制をかける」類の省庁の場合は、誰かひとりに責任を負わせるような形にならないように「我々」という一人称を使っている側面もあるのかもしれません。

ある意味での自衛手段ですね。

安水そうですね。「我々」という一人称には、良い所も悪いところも両方ある気がします。

栫井(ファシリテーター):続いて、立川さんはいかがでしょうか?

立川先ほど「コミュニケーションが少ない」というお話が出ましたけど、私も仕事の関係で霞が関に足を運んでいた時に「この環境ではコミュニケーションが取りづらいだろうな」と感じていました。

空間的にかなり狭く、それこそ「話をする」ための余裕がありません。それに四方八方を書類の詰まったファイルや上司に囲まれた環境を見ると、自由な発想や発言をしようと思っても難しいだろうな、と感じるわけです。

実はこのことは、私の肌感覚だけではなく具体的なデータでも説明出来るんです。お話する時間ありますでしょうか?

栫井(ファシリテーター):大丈夫です、お願いします。

立川ありがとうございます。まず、官庁の建物を建てたりする際には「新営一般庁舎面積算定基準」という基準に沿って作ることになっていて、この基準の中では、事務室や応接室などの面積基準として、職員の役職と人数に基づく計算式が定められています。要は「この役職の人は何平米ぐらい使っても良い」といった基準があるわけです。

で、実はこの基準が作られたのって、昭和初期の頃なんです。昭和初期と令和の今では、働き方って全く違うものですよね。にも関わらず、古い基準がずっと使われ続けてしまっているために、不具合が生じてしまうんです。

例えばこの基準だと、ワンフロアで280人ぐらい入るとしても、会議室が2つしか作れない計算になってしまいます。人数に対して会議室がこれだけ少ないと、打ち合わせやコミュニケーションの場がかなり限定されてしまう。

まさに「コミュニケーションが取りづらい」環境に、古い基準のままだとならざるを得ないわけです。

こういったルールを変えることができれば、自然とコミュニケーションが生まれる空間が出来てくるんじゃないかなと思います。

栫井(ファシリテーター):そのお話はとても面白いですね。具体的なデータを提示して河野行政改革大臣に提言したくなります。

渡辺数字で示すことができるから、問題点としてわかりやすいですよね。

安水それはつまり、法律を変えないとダメ、ということでしょうか?

立川いえ、これは法律ではなくて、あくまでただの「基準」です。なので法律と比べれば変えやすいものではあると思います。

ですが、実際に私もこの基準を制定した国土交通省に「この基準は変えられないのか?」と聞いたことがありまして。国交省の方いわく「今までも変えようと考えてきたのだけど難しい」とのことで、条件を付して特例を設けるようなやり方でしか対応してこなかったのが実態のようです。

「呼び込みベース」の打ち合わせが時間の無駄遣いを生み出す

栫井(ファシリテーター):ここまで様々な視点から皆さんのお考えをお聞きしてきましたが、私個人の考えでは打ち合わせのやり方にも問題があると思っています。

霞が関の打ち合わせには「到着ベース」と「呼び込みベース」の2種類があります。前者はあらかじめ開始時間が決められている打ち合わせで、後者は開始時間がはっきりとせず、例えば政治家の秘書から連絡があってようやく始まる打ち合わせです。

で、霞が関の打ち合わせって8割が「呼び込みベース」になってしまっていて、仕事を計画的に進めることが出来ないんですよね。そういった慣習も霞が関における「働き方」に大きく影響していると思います。

渡辺確かに「呼び込みベース」には私もかなり困らされた経験があります。これは私なりの考えなのですが「権限を下におろさない」風潮が根本的な要因なのかなと思っています。

つまり、霞が関では局長まで上げずに課長レベルで決められる話や、補佐レベルでどんどん進めていけばいい話までも「局長にまで話を持って行くかどうか」というところから議論を始める必要があるのが実態です。

そういう風潮に対しては、コミュニケーションの無駄遣いや作業効率性の悪さを感じてしまいます。

栫井(ファシリテーター):なるほど。加えて言えば、打ち合わせで何かを議論するにしても、あらかじめ時間やアジェンダが設定されていないことが多くて、時間の無駄遣いが生じているように思いますね。

渡辺霞が関における会議って、何かを決めるものではなく、あくまで「儀式」のようなものだったりしますからね。あるいは「誰も反対しませんでしたよね?」という「証拠づくり」だったり。そういった意味では、やはり「議論」が足りていない組織だなと感じます。

私がいる農林水産省でも、会議のやり方を改善しようとする動きもあったりはします。ところが、省庁の人間がそうした効率的な会議のやり方に慣れていないがために上手く改善できないのが実状です。

栫井(ファシリテーター):安水さんは、何か改善のアイデアなどありますでしょうか?

安水私が今いる職場では、会議の目的やネクストステップを全員で共有した上で、会議を行なっています。また、特にオンラインでは1時間以内に収めるようにもしています。そういったやり方が徹底されることで、意思決定の裁量も下に降りてきている感覚がありますね。

それと会議の時間も含めて職場内では「お互いを肩書で呼び合わない」というルールがあるんですけど、これには心理的なハードルを下げる効果があって、会議などの場で意見やアイデアを出しやすくなるんです。霞が関では「局長」や「課長」などと呼称するのが当たり前ですから、そこも要改善点ですよね。

活発な議論を生むための環境づくりの重要性

――ここまで提示されてきた霞が関の「働き方」における課題を踏まえて、改善策をどのように講じるべきかを議論。

栫井(ファシリテーター):ここまで出てきた色々な課題に対して、どのような改善策が講じられるか、議論を進めていきたいと思います。

例えば私は、会議のやり方については「上手な会議の仕方を知っている経験者」を外部から大量に連れてくることで、会議の文化を変えてしまえば良いと思っていたりするのですが、みなさんいかがでしょうか?

渡辺会議に関して言いますと「どのタイミングで色々な人の意見を交わらせるべきか」という会議の使い方の視点から、ノウハウを蓄積していかなければならないと思っています。そもそも、何でもかんでも会議で決めようとするのでは効率的ではありませんから。

ただ、個人的に気になるのは、省内の研修等でも「会議のやり方」がテーマにあったりするんですよね。

それなのに何故、会議のやり方がうまくないのか。

これは、結局のところそういった機会で教わる「会議のやり方」が、霞が関流の仕事の進め方にマッチしていないわけですよね。ですから、霞が関流の仕事の進め方を踏まえた上で、上手い「会議のやり方」を探っていく必要があると思います。

それと、先ほどお話が出ましたけど「オフィスの改善」というのも重要だと感じています。

例えば総務省ではオフィス改革を進めていますから、やろうと思えばできる取り組みなのだろうと思います。この動きが他の省庁にも広まっていくためには、オフィスのつくりが労働生産性に与える影響についての理解を促進することが必要ですね。

安水霞が関の会議について話をすると、最初の方の段階での会議では、参加者がもっとフランクというか活発に議論が行なえる空気づくりが大切だと思います。他者の意見を否定したりせず、積極的に意見を出しあえる空気ですね。

もちろん、何か意思決定をする必要がある場合には、それを達成できる会議にしなければなりませんが。その前のプロセスで行なわれる会議については、議論を行なえる空気づくりをする工夫の余地があると思います。

栫井(ファシリテーター):ブレインストーミングのような感じですね。渡辺さん、どうでしょう?農林水産省ではブレストみたいなことってやられたりしますか?

渡辺色々な役職の人が一堂に集まってやろうとしても、中々難しいのが現状です。結局のところ互いに空気を読みながら発言する感じになってしまいます。

法律を作るにしても、予算を考えるにしても、最初はもっと楽しく議論しながら進められたら良いなと私も思います。こうした作業で一番楽しいのって「どこが課題になっているのか?」という仮説を立てて検証することですし、そこには議論があるべきですよね。

ところが現状は、その仮説を立てるという作業さえも一人で取り組んでいる。ここのところが、霞が関での仕事が苦行になってしまっている一つの要因だと思います。

安水議論やブレストってリアルの場に集まらなくとも、メールやチャットでも代替できるんですよね。こうしたバーチャルな空間での議論だと、立場もない交ぜになって議論が活発に展開しやすいメリットもあります。立場が上の人が絵文字で「(^_^)」リアクションする、みたいな。

もちろん、立場が上になるとその立場を堅持したい心理が働くのも分かりますが。そうした立場は一旦置いておいて、フラットな状態で議論を進めることも重要だと思います。

栫井(ファシリテーター):立川さんはいかがでしょうか?

立川みなさんのお話を聞きながら思ったことですが、会議以外のタイミングでもブレストがしやすい環境づくりが重要だなと、私は感じます。

私の会社を例にすると、まず「いつでも相談できる上司」がいるのと、「上司を誘って相談ができる場所」がきちんとあるんです。

一方で霞が関で働く方々に話を聞いてみると、そもそも誰に相談をすれば良いかが分からない、という方が多い。というのも、役所の人事って、2年など短期での異動が多いですよね。そのため困ったことがあっても誰に相談すべきかが分からなくなってしまうようです。

それと、霞が関の方々は、会議の中で「発言で失敗したくない」という意識が働いてしまうようなのですが、これには霞が関の人事制度が影響を与えていると考えられます。

というのも、霞が関の人事制度は「ミスや失敗を犯さなければ役職が上がる」という仕組みになっているんですよね。その点は「ミスや失敗をしても最終的に成功すれば良い」という風潮に変えていくことが重要だと思います。

栫井(ファシリテーター):ミスや失敗を許さない人事制度と、短期間で異動してしまう人事制度。まずはこれらを見直すべき、ということですね。どちらも大事なことだと思います。

参加者の皆さんも、チャットで面白い話を色々と教えてくださっていますね。「全体的に計画性がそもそも不足している」「突発的な業務が多すぎる」…。なるほど確かに。仮にブレストの時間を用意したとしても、政治家や局長から急遽呼ばれたりして、せっかくのブレストが飛ばされてしまうってことは、ありそうですね。

渡辺まさしく、そうなんですよ。それで結局、業務時間外でしかブレストや雑談はできないという状況ですね。個人的にはそういった突発的な業務に対しては「本当にその業務必要なの?」「本当に必要な作業をもっと整理してもらいたい!」と思うことが多いです。

それと少し違う話ですが「広告代理店の打ち合わせの90%は雑談」という話を聞いたりすると、すごく腑に落ちる感覚を覚えます。

栫井(ファシリテーター):仰るとおり、クリエイティブな内容ほど雑談の比率を高めないと、常識の枠を外れたアイデアや発想は生まれないと思います。

渡辺そうですよね。

これはテレビ番組で話されていたことなんですけど、昔は国会の待機時間って文字どおり「待機する時間」だったから、そのタイミングで雑談もできたそうなんです。

今は待機時間中も業務を進めてしまっているので、そうした雑談は出来ないんですよね。

お互いを「肩書」で呼ぶのはもう止めよう

栫井(ファシリテーター):ここまで色々なアイデアを出していただきましたが、個人的には「お互いを肩書で呼び合わない」というやり方も、すぐに取り入れられるし有効な取り組みだと思うんですよね。

安水そうですね。本来はわざわざ「さん付けで呼んでもいいですか?」と了解をとるような話でもなくて。ゲリラ的にやりだすようなやり方でもいいと思うんです。

栫井(ファシリテーター):そうですよね。ただ実際には、その集団のトップの人の性格にもよるのが実態ですよね。

例えば、飲み会で課長が語りだしたら全員が耳を傾けて拝聴しなければならないというような組織だとまず無理そうです。

安水それは確かにそうですね。

そういった(固い)組織でも”さん付け”できるようにするとなると、、、例えば「毎週金曜日は“さん付け”にしましょう」というルールにして、館内放送で呼びかけたりするとかでしょうか(笑)。

それは冗談として、霞が関内でもそれぞれの組織文化によってハードルも違ってきますね。

立川「さん付け」の話とは少し違いますが、防衛省には「サンクスデー」という、お互いに「ありがとう」を言い合う日があると聞いたことがあります。 

渡辺そういうルールを設けてもらうと取り組みやすいですよね。

上司と仲良くなることに対しては、抵抗がある人とそうでない人がいますから。ルールとして取り入れてもらった方が、抵抗があったとしてもルールに従ってやっていく内に慣れていくこともできる気がします。

――以降、交流会に続く。

(ライティング:小石原 誠、編集:深山 周作)

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